人民新聞 2012.1.23
新年号で、「東電の企業責任を問う」特集を組んだ。犯罪企業=東電は、まき散らした放射能について「無主物」を主張し(5面参照)、電気という公共財を扱いながら、公共性・社会性のかけらもない無責任企業であることを自ら示した。
問題なのは、政府が、「原子力損害賠償支援機構法」を成立させて、際限のない税金投入によって東電を延命させようとしていることである。企業責任・株主責任・貸し手責任が、曖昧にされている。
東電延命法とも言える損害賠償支援機構法の最大の欠陥は、「放射能汚染・被曝」に対する損害賠償が含まれていないことだ。福島県を中心にまき散らさ れた放射性セシウムという毒物の回収には、2兆円とも5兆円とも試算されている除染費用が必要だ。これは、発生者である東電が第一義的に負担すべきもので あり、政府が除染費用を一時的に立て替えたとしても、東電に請求すべき費用である。
「市民除染プロジェクト」の山田國廣さんは、「除染は、ボランティアでやるべきではない」と言う。本来なら東電が「除染部隊」を編成し、「電話1本 で駆けつけて、汚染物を引き取って帰るのが筋だ」(山田さん)。住民や自治体が除染をやったとしても、「かかった費用や人件費は領収書を保管して、東電に 請求すべき」と呼びかけている。
除染費用の負担を求める裁判も準備されている。除染プロジェクト代表・山田國廣さんに、政府による除染事業に対する批判と東電の除染責任について聞いた。(文責・編集部)
税金による肩代わりは許されない
市民除染プロジェクト代表・京都精華大学教授
山田國廣さん
政府も認める除染の限定的効果
──政府は、住民の流出を抑えるために、除染活動を本格化させていますが…。
山田…昨年12月、環境省は「除染関係ガイドライン」を公表しました。放射線量の正しい測定の仕方、除染の方法、除去した土の運搬や保管方法などが解説されています。
|
洗い流すのではなく、剥ぎ取る
除染。写真右が山田さん |
ガイドラインは、まず2年間で放射線量を5割削減する、との目標を設定しています(学校・幼稚園など、子どもの生活環境は6割減)。ところが内訳を見ると、4割は、放射能の物理的半減期と風雨による自然減です。つまり、除染活動による放射線量減少は、わずか1割です。
環境省は、汚染を実質的に下げることを目標にするのではなく、できる範囲の目標設定にしたということです。これでは、故郷への帰還や住み続けること を願う住民にとっては、実質においてほとんど意味がなく、流出を防ぐための宣伝効果を狙ったものでしかありません。まず政府自身が、除染効果について、限 定的であることを理解し始めたということでしょう。
除染方法については、若干変化が見られます。相変わらず高圧水除染が主な方法ですが、その効果について限定的だと認めて、ブラッシングや研磨を指示しています。また、除染後の汚染水の回収を指示するなど、放射能が拡散するという欠陥に配慮した記述があります。
しかし、回収した洗浄水の保管・処理方法の具体策は、示されていません。総務省の委託で作成された原子力開発機構による「除染マニュアル」への批判 が噴出し、追認できなくなった環境省は、汚染水の回収について「注意はしておきます」とばかりに問題点を指摘しましたが、結局現場に責任を押しつけていま す。
またガイドラインでは、田畑・山林の除染について「土を少なく剥ぎ取る」よう指示しています。膨大な汚染土をできるだけ減らしたうえで、コンクリー トの箱を作って地下貯蔵するというものです。しかし、学校の校庭のような平面なら薄く剥ぎ取ることも可能ですが、坂や凸凹がある田畑・山林では、無理で す。剥ぎ取った土の保管場所・処理法についても、未解決です。これも現実的な提案とは、とても言えません。
(続きを読む…)