東京新聞 2011.12.22
袋に詰めて施設内で保管されている焼却灰=16日、大田原市の広域クリーンセンター大田原で
二段、三段と積み上がった袋詰めの焼却灰を見上げて、担当者は戸惑った表情を浮かべた。「対応が後手後手というか、国から長期的な指示もない。その場しのぎでしかない」
放射線がもたらした影響は、コメや野菜だけではない。廃棄物からも高濃度の放射性物質が検出され、行き場をなくした。
大田原市と那須町の家庭ごみを焼却する広域クリーンセンター大田原(同市)。十四日現在、敷地内で三百三十九トン、那須町の別の施設でも二百十五トンの焼却灰を保管する。センターの保管場所は限界が迫る。
市内の最終処分場で焼却灰の埋め立てをやめたのは六月。東京都内の清掃工場で、高濃度の放射性セシウムを検出したのがきっかけだった。灰は処分できず、増える一方。センター内のごみ置き場を埋めていった。
セシウムを含む廃棄物の処分をめぐり、国は「一キログラム当たり八〇〇〇ベクレル」という基準を設け、焼却灰も八〇〇〇ベクレル以下なら埋め立て可能とした。八月末に示された新たな処分方針は、八〇〇〇~一〇万ベクレルの灰はコンクリートで囲うなどして埋め立てる内容だった。
だが、住民にとって数値は関係なかった。たとえ八〇〇〇ベクレル以下でも放射性物質が含まれているだけで、処分場の地元は受け入れを拒んだ。那須地区広域行政事務組合は三度も住民説明会を開いたが、なかなか理解を得られなかった。
最大で一キログラム当たり一万三五八〇ベクレルあった焼却灰の放射性セシウム濃度は、今月には二二三〇ベクレルまで減った。組合側は粘り強く戸別訪問を続け、来年一月から、新たに発生する灰は埋め立てを再開することになった。「国のつくった制度と地元住民の思い。この溝はなかなか埋まらない」。組合担当者は言う。
一方、一日約百七十トンが排出される下水汚泥も状況は同じ。汚泥の場合、県内に埋め立てる場所すらない。県は、容積を三十分の一に熱処理した「溶融スラグ」を六カ所の下水処理場に分散保管する計画を立てたが、搬入が始まったのは二カ所だけ。一部の施設は周辺住民が反対する。
一月以降、県内でも除染が本格化すれば廃棄物はさらに増える。「誰だって『はい、うちで引き受けます』という人はいないよ」。取材で聞いた、ある主婦の一言が耳に残る。 (神田要一)
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