東京新聞 2011.12.21
今年産のコメをすくう佐藤さん。商品名のプレートとともに放射性物質の検査結果を掲げている=13日、宇都宮市で
今月初め、一通の手紙をもらった。
「消費者の立場に立って、コメと放射性物質についてもっとできることがないか、日々ない頭を使っております」。食品を売る現場で、苦心している様子がつづられていた。
送り主は宇都宮市のコメ販売会社社長、佐藤直人さん(38)だ。初めて会ったのは八月。新米の収穫期を前に、消費者の間で「今年のコメは大丈夫か」と、原発事故による放射線の不安が広がっていたころだった。佐藤さんの店にも昨年産のコメを求める人が相次いだ。
肉牛の出荷停止というショックを引きずる中、県は八月半ばから全ての市町でコメの検査を始めた。収穫前と収穫時の二回、延べ二百五十地点以上で放射性物質を計測。安全が確認されるまでコメ農家は出荷を控えた。全市町で安全宣言が出たのは九月末だった。
それから約三カ月。手紙をくれた佐藤さんを再び訪ねた。
県内産などの新米が店頭に積まれ、その傍らに白いコピー用紙がそれぞれ掲げられていた。品種や生産者ごとに、民間会社へ独自に依頼した放射性物質の検査結果だ。県のお墨付きを得た後も、自社努力で安全確認を続けている。
とにかく昨年のコメの方がいいという人、関東より西日本のコメが欲しいという人、安全なら栃木県産を買うという人…。消費者の反応はさまざまだったが「心配していない人はいない。みんな、どう自衛すればいいかを考えている」と佐藤さんは言う。
国が定めた食品の放射性セシウムの暫定規制値は一キログラム当たり五〇〇ベクレル。それでも、店には「不検出」のコメしか並べない。「ゼロだから安心、一〇ベクレルなら安心とは言えない。放射能というものの怖さが分からないから」
鹿沼市の農家島田真一さん(60)も「コメ余りの時代に、放射性物質が出たものを金を出してまで買ってはもらえない」と消費者心理を読み取る。県は出荷期を迎えた農産物の検査を進めているが、ここへきて、学校給食や家庭菜園の野菜を受け付け、独自に検査する市町も出てきた。
今月十六日、政府は「原発事故そのものは収束に至った」と宣言した。でも、目に見えぬ不安は、時がたってもなくならない。 (神田要一)
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