河北新報 2011.12.17
国は福島第1原発事故の収束に向けた工程表の「ステップ2」完了を宣言し、原子炉が一定の安定状態になったと発表した。しかし、原発の安全性への信頼を裏切られ、古里を追われた福島県の住民や自治体に達成感はほとんどない。近く公表される避難区域の見直しをめぐっても疑念や諦めが渦巻き、「福島の再生」を実感するにはほど遠い。
福島第1原発が立地する大熊、双葉両町から避難した住民には「もう帰れない」という諦めが広がっている。福島市の仮設住宅で暮らす双葉町の無職山下忠宏さん(82)は「放射線量が高すぎる。政府は帰れるかどうかを判断できないあいまいな表現をやめて、土地を買い上げて最終処分場にすると決断すべきだ」と語る。
住民は事故当初から二転三転する国や東電の情報に振り回された。大熊町で畜産業を営み、会津若松市に移った志賀美代子さん(51)は「原子炉が安定状態になったと聞かされても信じられない。こんなに早く完了宣言して大丈夫なのか」と疑いの目を向ける。
国は線量が低い地域については帰還を認める方向で、近く避難区域の見直しを進める。しかし楢葉町の農業草野邦応さん(53)は「子どもを連れては帰れない。自分が避難先のいわき市と地元を行き来することになるだろう」と家族全員の帰還を諦めている。
「病院や上下水道、商店など生活基盤の整備がなければ帰るのは難しい」と言うのは、南相馬市小高区で老舗のラーメン店を営んだ豊田英子さん(62)。「元の場所で営業再開してもお客さんが来てくれないだろう」と二の足を踏む。
国が帰還に向けて実施する除染についても期待感は薄い。富岡町の自営業安類聖子さん(66)は「除染作業はパフォーマンスだと思う。『やったけど駄目でした』と言うためではないか。いつまでも生殺しのように待たされるのは耐えられない」と批判する。
避難住民の間では、広大な避難区域を全て除染するのは現実的ではないという見方が一般的だ。浪江町の会社員今野悦男さん(60)は「たくさんの放射性物質がまき散らされた。地区の約8割を占める山林の除染は不可能で、無駄金を使うことになる。何十年後かに帰れても、その時は復興の気力はないだろう」と話す。
◎「根拠なき宣言早計」/地元首長、信頼性を疑問視
事故を起こした福島第1原発1~4号機が立地し、全域が警戒区域に指定されている大熊町の渡辺利綱町長はステップ2の完了宣言について「一歩前進」とした上で、「私たちにとっての事故収束は町民が町に戻って安心して暮らせること」と強調した。
原発は今月に入っても放射性ストロンチウムを含む汚染水が流出するトラブルが続く。渡辺町長は「トラブルにはしっかり対応してほしい」と注文を付けた。
一部が警戒区域に当たる南相馬市の桜井勝延市長は、完了宣言の信頼性に疑問を抱く。「炉心や燃料を完全制御できていることを確信できる根拠はなく、宣言は早計ではないか」と述べた。
「事故発生以来、国や東京電力の情報開示には不信感があり、まともに受け止められない」。浪江町の馬場有町長は警戒区域指定に伴って役場機能を移した二本松市で記者会見し、完了宣言を批判した。
避難指示が解除されても帰還に消極的な町民が一定数いる実情を踏まえ、「戻らないと判断する町民への支援策も持っていたい」と話す。
佐藤雄平知事は県庁で取材に応じ「期待感は持たせるが、完全収束までは道半ばという認識。県としては安全安心を大前提に何ができるのか見極めたい」と語った。
2011年12月17日土曜日
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