2011.12.5
なんで原発のことばかり書くのかと心配してくださる向きもあるが、これからの日本と世界を左右する決定的なテーマだと思うからである。
原発の今後を考えるうえで示唆に富む報道が続いている。本紙(2日朝刊)によれば、02年、当時の経済産業省事務次官と東京電力の会長・社長が、「核燃料再処理事業から撤退」で合意に近づいていた。
核燃料再処理とは、原発から出る使用済み燃料に化学処理を施し、再利用可能なウランやプルトニウムを取り出すことをいう。これがうまくいかない。うまくいく見通しもない。撤退協議は自然だった。結局、立ち消えになった(=東電のトラブル隠し発覚で首脳陣が交代し、途絶)とはいえ、この逸話は、原発政策転換が夢物語ではないことを示している。
同じ日の本紙夕刊(統合版地域は3日朝刊)に、イギリスが核燃料再処理で蓄積したプルトニウムをもてあまし、一部を地下処分場に捨てる予定だという記事が出ていた。このニュースはさらに重要だ。
プルトニウムは原子炉のウラン燃焼過程で生まれる。1グラムに石油1キロリットル分のエネルギーを秘める。原爆の材料にも、原発の燃料にもなる。イギリスはせっせと蓄えてきたが、平和利用の柱と目されていた高速増殖炉の開発に失敗した。
そこでMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料にして原発で燃やすプルサーマル発電をめざしたが、MOXがつくれない(日本も同じ。現在、仏アレバ社だけが生産しているが、品質の評価は定まらない)。そうこうするうちに、イギリスは世界最大の「余剰(=利用先のない)プルトニウム」保有国になってしまった。
イギリスは困った。プルトニウムは厳重に保管しなければならない。カネがかかるが、カネはない。とはいえ、ズサン管理でテロリストの手に渡ったら困る。そこで一部を、2040年操業開始予定の地下処分場に埋めることにした。
一部といっても、原爆を数十発から数百発つくれる量だ。MOX開発は引き続きイバラの道だから、埋める量が増える可能性がある。しかもイギリスは今後10年かけ、核燃料の再処理をやめる。この政策の背景には、もはやプルトニウムは希望ではなく、厄介者だという根本的な認識の変化がある。これが、ロンドンから届いた会川晴之記者の特報のミソだ。
イギリスは高速増殖炉開発を既にやめ、核燃料再処理もやめる。計画段階とはいえ、プルトニウムを含む核廃棄物の処分場のメドもついた。
日本は処分場建設の見込みが立たない。だが、だから、もんじゅや核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)を動かせというのは本末転倒だ。
プルトニウムは安全保障にも直結する。イギリスは核保有国だが、日本の場合、プルトニウムから離れて潜在能力を失えば、独立を脅かされないか。重要な論点だが、これさえ、プルトニウムの害毒を軽視する理由にはならないと思う。
これらの問題について、エネルギー担当閣僚である枝野幸男経産相、細野豪志原発事故担当相や、仙谷由人・民主党政調会長代行らが、専門家から意見聴取を続けている。
国内はもちろん、対外交渉においても、原発依存の繁栄の夢を説くだけでなく、繁栄の後始末を引き受け、乗り越える覚悟が問われている。(毎週月曜日掲載)
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