Web 本の雑誌 2011.12.
- 『永久保存版 肉も野菜も魚もこれで安心 放射能を落とす下ごしらえ』
- 椎名 玲
- 中央公論新社
- 1,260円(税込)
今年も残すところ、1ヵ月あまり。思えば3月11日を境に人々のものの見方、価値観はがらりと変わったといっても過言ではないだろう。震災直後のショックとパニックからは立ち直ったものの、収束の見えない原発事故に不安を覚える人は多いはずだ。
「メディアからの情報、政府の発表、ネットを飛び交うさまざまな見解、そして流言蜚語」に振り回されるのではなく、「信じるに足る情報を見極める力を持ち、冷静に対処することが、自分たちの身を守る最善の策といえるでしょう」と話すのは、食品ジャーナリストの椎名玲氏と吉中由紀氏。二人は『危険食品読本』『間違いだらけの安全生活』などの著書で、食品の危険性について警鐘を鳴らしたり、健康食品ブームに疑問を投げかけたりしてきた。とくに椎名氏は、2003年から原発問題に関する取材を続けており、海外の事情にも詳しい。
今回、震災を受けて二人が書いた『永久保存版 肉も野菜も魚もこれで安心 放射能を落とす下ごしらえ』には、牛肉や海産物などの深刻な汚染の実態がまとめられ、汚染された食品を食べることによっておこる「内部被爆」の危険性が詳細に記されている。たとえばチェルノブイリ原発事故での一例として、オーストリア人の被爆経路を調べたデータによると、地面の汚染に起因する被爆が15%であったのに対し、食品を通しての内部被爆が80%であったという。
本書の特徴は、そのような放射性物質がもたらす悲劇について語ったうえで、日々の生活で私たちができることは何かを具体的に記しているところ。実用書として使えるよう、「放射能を落として安全に食べる」方法をイラスト付きで詳しく列記し、野菜、果物、牛肉、海産物などの食材別に丁寧に説明している。
牛肉であれば、最も安全な食べ方は「しゃぶしゃぶ」であるという。肉を洗うようにゆでて、ポン酢で食べることをすすめている。注意点は「アクはこまめにすくい、だし汁は飲まないこと」。加えて、「もも肉を野菜と煮ると、相乗効果で放射能性物質を半分に落とせるというデータもある。また、酢を2倍に薄めた中に2日間漬け込むと90%が除去されたという」。これなら自宅で実際にやってみることもできるだろう。
やみくもに怖がって現実から目を背けるのではなく、自分たちができることを知り、実践してみようという気持ちがわいてくる一冊だ。
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