地球と7代先のこどもたちを元気にしてゆく情報発信サイト
Header

「粉ミルクから30ベクレル」の波紋  できたばかり、二本松市のNPOが最初に検出

12月 14th, 2011 | Posted by nanohana in 1 子供たちを守ろう | 1 広島・長崎・チェルノブイリ 他 | 1 測定 | 2 アクション・選挙・住民投票

日経ビジネスオンライン

藍原 寛子プロフィール】 バックナンバー 2011年12月14日(水)

TEAM二本松で行われている食品測定

乳児向け粉ミルク「明治ステップ」から、1キログラム当たり最高で30.8ベクレルの放射性セシウムが検出され、メーカーの明治(東京都)が、対象の40万缶の無償交換を始めたというニュース。福島県内にも衝撃が走った。

粉ミルクの検査は、厚労省が7月から8月にかけて、市販品25種類を対象に実施済みで、その検査では放射性セシウムは検出されなかったからだ。さらに今回、セシウムを最初に検出したのは、明治でもなく、国県など公的に検査を行っている行政側でもなく、震災以降活動を開始した、できたてほやほやのNPO(非営利団体)である「TEAM二本松」(佐々木道範理事長、福島県二本松市)だったからだ。福島県内をはじめ、全国各地で次々に市民放射能測定所が開所しており、市民の活動が注目を集めることになった。

明治が発表した翌日、TEAM二本松のメンバーや佐々木さんを訪ね、話を聞いた。

佐々木さんは二本松市の真行寺副住職で、1歳から大学生まで5人の子どもの父親だ。「測定を始めたきっかけは、本当に個人的なこと。子どもたちが食べているものが本当に安全なのか、それが知りたいと思って始めた。それに寺で幼稚園を経営しているので、安全なものを提供したいということだった」。

保護者の間で広がった不安

佐々木さんとともに、子どもの安全や内部被ばく予防に関心を持つ二本松市の30代から40代を中心とした保護者の有志によりグループが結成されたのが今年7月。

以後、放射性物質について理解を深め、取り組んでいこうと、地域の除染活動や放射線の測定、勉強会などの活動を開始した。やがて、仏教関係の友人らから支援金が寄せられ、それを活用して食品などの放射線が測定できる500万円相当のヨウ化ナトリウムシンチレーション測定器を注文。9月下旬には測定器が到着した。同市内では最も線量の低い岳(だけ)温泉地区を選び、空き店舗を借りて測定室を開設。会員や知人、地域の人たちが持ち込む食品、農作物の測定を始めた。

「とにかく最初は、子どもが食べるもの、飲むものを測ろうということになった」と佐々木さん。子どもが普段飲んでいる牛乳、乳児が毎日飲む粉ミルクから開始。粉ミルクは測った8検体のうち、「明治ステップ」からのみ、1キログラムあたり40ベクレル近い超える放射性セシウムが検出された。

「粉ミルクは大丈夫かと思ったけれど、数値が出ましたね」と、TEAM二本松で測定を担当し、一番最初に明治ステップの放射性セシウムが検出された際に立ち会った福田恒輝さんは話す。

「食品や野菜から放射性セシウムが出るのは、福島に住んでいない人からすればビックリするようなことかもしれない。でもこれまでの測定では、野菜やキノコ類でも放射性セシウムが出ているので、驚かなかった」。

今回の測定では、1キログラムあたり約30ベクレルと、国の暫定規制値200ベクレルを下回った。しかし厚労省は、保護者や消費者の関心が高いことから、市販の粉ミルクや乳児向け食品を定期的に検査することを決定。今後は、乳児・子ども向けの食品基準の策定なども進めていく見通しで、1つのNPOが「子どもを守りたい」という動機から始めた測定は、国を動かし始めた。

2週間の公表遅れ、なぜ?

粉ミルクから放射性セシウムが検出されたことは、いくつかの課題を浮き上がらせた。

まずは、市民団体などによる測定に対するメーカー側の対応の問題。

共同通信は9日、「明治、セシウム情報を2週間放置」との見出しで、明治が連絡を受けていながら約2週間、詳しい検査に乗り出さなかったことを報じた。市民(消費者)と、食品メーカー(生産者)の間に、放射性物質の問題に対する温度差があることを浮き彫りにした。

TEAM二本松が最初に検出したのは11月初め。明治に連絡すると「原料は北海道産なので大丈夫」との返事がきたが、それきりだった。再度連絡すると、「検査もしているから大丈夫」などと言われただけだったという。

ここで、TEAM二本松のメンバーや、県外の活動支援者から「外部の専門検査機関に依頼しては」という声が挙がった。費用を払って測定を依頼すると、こ こでも30から40ベクレルが検出された。「全国で粉ミルクを飲ませている保護者は、数値を知るべきではないか」という意見が出てきた。

そこで、この検査機関に取材に来ていた共同通信の記者に依頼して、明治に直接現物を持って行ってもらい、測定を依頼。すると間もなく、「明治ステップで放射性セシウムを検出」が公表されたという。

測定された放射性セシウムの数値は暫定規制値よりも低いものの、消費者から寄せられた情報に対して企業は適切に対応しなければ、問題をより深刻にする可 能性がある。特に粉ミルクは乳児の“主食”。今回、無償交換となる850グラム缶は1週間から約10日で消費されるというが、放射性物質への感受性が高い 乳幼児が飲むものだけに、明治側により丁寧な対応が求められる場面だった。

もう1つの課題として、加工食品を製造する過程での放射性物質の混入防止対策が浮き上がってきた。

明治では、放射性物質が含まれていたのは原料ではなく、乾燥させるために使った外部の空気に放射性物質が混じっていたと見ている。震災直後は SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク)も公表されず、明治側で防げる可能性は低かったのかもしれないが、第三者機関に測定依頼するなど、 さらなる対応も必要だったかもしれない。

放射性物質の問題は、今後も様々な課題を生む可能性がある。食品メーカーは消費者と対峙するのではなく、全国の市民放射能測定所と連携して、適宜お互いに情報交換し合うようなことがあってもいい。生産者と消費者の間の温度差をなくす工夫が必要だろう。

「微量で、健康被害を心配する必要なし」

検出された1キログラムあたり最大で30.8ベクレルという放射性セシウムの数値について、日本産科婦人科学会は8日、「たいへん微量であり、この粉ミルクから余分に受けた被ばくに関して健康被害について心配する必要はない」との見解を示した。6日に明治が公表、その翌々日の見解発表と、極めてスピーディーな対応だった。

この中では具体的な数値を示して「仮にこの汚染ミルクを毎日60グラム、4か月間飲み続けた児(乳児)であっても、粉ミルクから受けた被ばく量はたいへ ん微量」とし、さらに「お母さん方の安心のため、各メーカーで、製品中に含まれる放射性物質に関する調査結果を、適切に開示することが望ましい」とした。

だが、やはり母親の間では不安が残る。

二本松市の主婦で3児の母、遠藤文美代さんは「30ベクレルだろうが、1ベクレルだろうが粉ミルクに入っていたら、子育てしている親は不安でしょうがな い。10年、20年先を考えて、『あのミルクを飲ませなければよかった』『あそこに行かなければよかった』と言うようなふうにはなりたくない。市民グルー プが測って指摘したことで、今後、東電や国の対応が変わってくれれば」と、涙ぐみながら話した。

福島県内のお母さんたちも参加して、母乳に含まれる放射性ヨウ素や放射性セシウムの測定を行ってきた「母乳調査・母子支援ネットワーク」代表の村上喜久子さんは、「粉ミルクを飲んだ乳児の早急な実態調査と健康測定が必要」と明治側の対応を求める。

「赤ちゃんはミルクしか飲まない。しかも体重は3~5キログラムと小さく、放射性セシウムが含まれる母乳や粉ミルクの影響は大きい。お母さんたちにも、 該当の粉ミルクをただ交換するのではなく、購入した時期や、いつから赤ちゃんに飲ませたかなどの記録を取ることをお勧めする」と、父母らに記録を取るよう アドバイスしている。

チェルノブイリからの報告

TEAM二本松が粉ミルクへのセシウム混入を独自に測定して明らかにしたように、福島県内では父母らを中心として、子どもの内部被ばく予防への関心がますます高まっている。

チェルノブイリの小児科医、ウクライナ放射線医学研究センターのエフゲーニャ・ステパノワ教授による25年間の子どもの健康観察についての講演会が11日、福島市で開かれた。

25年間の子どもの健康観察の結果を報告するステパノワ博士

国際環境NGO (非政府組織)、グリーンピース・ジャパンの主催で、会場には120人を超す市民が来場した。

ステパノワ博士は、チェルノブイリ原発事故が大事故であるという認識が遅く、医療当局へのタイムリーな情報が不足し、ヨウ素配布の遅れて、子どもの健康に大きな被害をもたらしたことを説明。

被ばくした住民グループのなかで特にリスクが高いのは子どもで、チェルノブイリ事故が起きた1986年生まれの子どもに対する追加被ばく線量は年1ミリシーベルトで、全生涯で70ミリシーベルトを超えないことがウクライナの法律で定められたことも述べた。

また、ウクライナの汚染地域では、子どもの内部被ばくの原因で最も大きいのが牛乳、次いで肉、ジャガイモ、野菜などで、汚染されていない乳製品の入手が 困難な地域が今もあるのだという。ちなみに、子どもの食品については、1キロあたり40ベクレルが上限基準で、日本の暫定規制値よりも低い数値になってい る。粉ミルクに放射性セシウムが混入した問題については「30ベクレルなら、私たちの法律では範囲内」と話した。

だが、ステパノワ博士は、今後の内部被ばくの低減策を重視。放射性物質による低線量内部被ばくによる症状と、それ以外の原因による症状とでは、明確に原 因を区別できるような診断方法は、まだ確立していないという。ただ、「子どもが複数の病気にかかりやすくなったり、以前には子どもには見られなかった病気 が見られるようになった。チェルノブイリ事故後、子どもたちの健康状態は悪化した。主たる原因について断言できないが、放射能やストレス、親の経済状態な どの要素が複合的に絡んでいるのかどうか、今後も議論し続けるだろう」。

そして最後に、放射性物質による被ばくのリスクが高い子どものケアが大切で、「毎年1回は甲状腺被ばく検査を受けてほしい。早期治療で病気に対処でき る。汚染されていない地域に子どもたちを移して保養させることも大切」と話し、定期的な健康診断と観察、短期間でも汚染地域からの避難などを提言した。

市民放射能測定所の開設が相次ぐ

ちょうどこの日は、東日本大震災発生から9か月。

もう9か月だが、9か月経ってもまだ、子どもの内部被ばくや放射線問題についての市民の不安がやまない現状。福島県内では市民放射能測定所の開設が相次いでいる。この日の講演会に殺到した人々の熱いまなざしには、必死さもにじんでいた。

多くの子どもが甲状腺がんになったチェルノブイリ事故は、「汚染されていない食品を食べることで、内部被ばくを防ぐ」という大切な教訓を残した。この教訓を今後の測定や食品の安全確保に役立て、国民の安心感につなげることができるだろうか。

ステパノワ教授は最後に力強く言って講演を締めくくった。「チェルノブイリの悲劇は、全人類の悲劇です」。


.

 

You can follow any responses to this entry through the You can leave a response, or trackback.

Leave a Reply

Bad Behavior has blocked 2469 access attempts in the last 7 days.