京都新聞 社説 2011.11.5
建設以来、トラブル続きの高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)が、今月20日に始まる行政刷新会議の「提言型政策仕分け」の洗礼を浴びる。東京電力福島第1原子力発電所の事故を受け、国民の厳しい視線が集まる。今後の原子力に関する研究と開発の在り方にもメスが入る。
原子力発電は天然のウランを燃料とする。天然ウラン資源はいつか枯渇するため、その解決手段として考え出されたのが、核燃料サイクルと呼ばれる政策だ。高速増殖炉「もんじゅ」は核燃料を再処理したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を使い、消費したよりも多くの燃料を生み出す原発施設として導入された。現在は発電に使う実用炉の手前の原型炉の開発段階にある。
もんじゅは1994年に初臨界に達したが、翌年には冷却用のナトリウムが漏れる事故が起きる。2010年、14年ぶりに運転を再開したが、3カ月後には原子炉容器内に燃料交換装置が落下し、現在も運転が止まっている。
何の成果も得ないまま、これまでに投じた建設費や研究開発費は9400億円にのぼる。運転中止中の現在も年間200億円前後の維持管理費が要る。冷却剤のナトリウムを加熱するヒーターの電気代だけで年に10億円もかかる。
もんじゅは持続可能な原子力発電施設として当初から構想され、原子力発電の永続を前提とした施設である。福島第1原発の事故以来、「脱原発依存」の国民世論が高まるなかで、必要か不必要かの議論は、もはや不要ではないか。「提言型政策仕分け」で、はっきりと「もんじゅ廃止」の宣告を下すべきだ。
政府が7月に閣議決定した2011年版の科学技術白書では、前年あった「高速増殖炉の実証施設を実現する」との記述が削除された。これも廃止の根拠になる。
気になる発言が報道された。もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の鈴木篤之理事長が、発電実用化とは別の研究機関に軸足を移す方向性を示したのだ。
鈴木理事長は、実用炉の建造を目指す従来路線は「なかなか国民に理解してもらえない」との認識は示しながら、組織と事業の存続を訴えている。4000人近い常勤職員を抱える開発機構トップとして生き残りを模索するのは分かるとしても、国民的視点に立った「政策仕分け」が求められる。
同時に、核燃料サイクル全体が問われるべきだ。青森県六ケ所村で建設が進む使用済み核燃料の再処理工場は、1993年の着工から18年が経過しても完成していない。こちらも、すでに2兆円を超す国費が投じられている。国費の浪費は許されない。
[京都新聞 2011年11月05日掲載]
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