「何やってるんだろう。民主党と自民党が力を合わせ、もっと被災者対策を進めてほしいのに」。福島第一原発の事故で、四月から東京都内で避難生活を送る女性(25)は、首相の辞意表明をめぐる政治の迷走がじれったくて仕方ない。
二月、東日本大震災が起きる二十日前、原発から約十キロの福島県浪江町に約二千四百万円で購入した一戸建てに、夫(27)、長女(4つ)、長男(1つ)と 入居した。二階まで吹き抜けのリビング、ステンドグラスの玄関窓…。夫と相談しながら建てた念願のマイホームだったが、原発二十キロ圏内にあり、今は一時 帰宅しか許されない。
立ち入り禁止の「警戒区域」に指定される直前の四月下旬。荷物を取りに、避難先から戻った。かっぱを着込み、口にはマスク。「放射能が怖くて落ち着かない。もう戻れない気がした」
会社員の夫は原発事故で休職になった。女性が訪問販売業のアルバイトを始め、家計を支える。五年間の支払い猶予を得たものの住宅ローンの残りは一千万円以上。放射能の心配がない新居を購入したいが、二重ローンになってしまう。
女性は五月下旬、浪江町に電話で「チェルノブイリのように何十年も住めないんじゃないか。自宅を国で買い取ってほしい」と問い合わせた。担当者は「同じような要望はある。そうなると信じたいのですが…」と答えるだけだった。
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「マイナスでなく、せめてゼロからスタートさせてほしい」
宮城県名取市の男性(51)は海岸から約一キロの十五年住んだ自宅が土台を残し、流された。二百メートル先で見つかった二階部分から洋服だんすを運び出すのが精いっぱいだった。
約千五百万円のローンが残った。火災保険に加入していたが、地震保険には入っていない。会社も地震で壊れ、辞めざるを得なかった。故郷を離れ、家賃が半年無料の都営住宅に身を寄せた。
家を建て直す場合、二百万円の住宅再建支援金が支給される。でも、男性は「無理。建て直せるのはローンがない人だけ」と話す。
政府は、個人や中小企業への債権放棄をうながすため、放棄した金融機関の減税を検討しているが、政局の混乱で遅れている。「茶番も茶番。私たちのことを考えてくれているのか。いい方向に行くなら、多少遅れてもいいんですが…」
中小企業も深刻だ。宮城県商工会連合会に寄せられる相談の八割超が二重ローン問題で、一千万~二千万円単位も多い。担当者は「政治のああいう状況は論外。銀行に資本注入したように中小企業にも」と求める。
二重ローン対策を提言している日本弁護士連合会の岡田理樹事務次長は「(被災地の金融機関が公的資金を受けやすくなる)金融機能強化法改正案が審議入りし たが、参院で問責決議案が出たりしたら国会が止まる。『救われる』という政治のメッセージを早く出して」と話している。
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