毎日新聞 2011年10月20日 東京朝刊
◇給食1食分ミキサー検査を--東京大学大学院・理学系研究科教授、早野龍五
東京電力福島第1原子力発電所の事故で設定した緊急時避難準備区域の指定を政府が9月末に解除し、各地で除染への取り組みが進む。その中で多くの方々が放射性物質により汚染された食材による内部被ばく、特に子どもへの影響を心配しておられる。
厚生労働省のホームページには自治体が公表した各種食材に含まれる放射性物質のサンプリング検査結果が連日掲載される。また、給食食材のサンプリング調査結果を公表する自治体も増えている。
しかし「不検出」とされた食材にも実際は1キログラム当たり数十ベクレルの放射性セシウムが含まれているのではないか、基準値以上の放射性物質を含む食材がサンプリング検査をくぐり抜けて流通しているのではないか、などという不信は根強い。
そこで提案したいのが、食材のサンプリング検査に加え「給食まるごとミキサー検査」を行うことである。調理済みの学校給食1食分をまるごとミキサーにかけて放射性セシウムの量を精度よく測り、結果を毎日公表し、数値を長期にわたり積算するのだ。
これにより、子どもたちが実際に何ベクレルの放射性セシウムを摂取しているかを知ることができるし、その地域の日常的な食事の汚染の有無もある程度推定できる。また、給食食材は食中毒対策などのために保存義務があるので、仮に高い数値が出た場合には、原因を追究して対策をすることが可能である。
この提案について、インターネットで簡易アンケートを取ったところ、2日間で約7000件(うち53%が給食年齢のお子さんをお持ちの方)の回答があった。「賛成」が約90%、「食べてからでは遅い」が約7%、「判断できない」と「反対」が合わせて約3%であった。
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仮に高い数値が出てしまった場合の混乱を恐れ、検査に消極的な意見も行政側にあると聞いている。それこそ事故直後にSPEEDI(大気中に放出された放射性物質の拡散状況などを予測する緊急時迅速放射能影響予測システム)の予測値の公表をちゅうちょしたのと同様の過ちである。測定して結果を公表することによってのみ、国民の信頼が得られ、有効な内部被ばく対策につながる。
文部科学省は第3次補正予算案で学校給食の食材を優先的にサンプリング検査すべく、自治体の検査機器の整備費用の一部を補助するという。しかし、整備が想定されている簡易検査機では、給食の放射性セシウム量を十分な精度で測定し、積算することはできない。給食まるごとミキサー検査は、検査機関に外注する費用を国が負担する方が現実的である。
BSE(牛海綿状脳症)問題で全頭検査体制が確立していた牛肉では1キログラム当たり1ベクレル以下でも検出するほどの高精度で測定している例もある。それなのに、実際に子どもが食べている給食を測定していないのは、検査機器・人員の偏った使い方だ。
前述のアンケートは、人口比でいうと福島県からの回答が最も多かった。内部被ばくへの関心の高さが分かる。給食まるごとミキサー検査を最も必要とするのは、空間線量率の高い福島県を中心とした地域である。外部被ばくと内部被ばくの和を知り、それを低減する努力が必要だからである。
そのうえで、全国各地でも検査を行えば、汚染食品の流通の有無が明らかにできるであろう。政府と自治体は、早急に取り組んでほしい。
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■人物略歴
◇はやの・りゅうご
専門は素粒子原子核物理学。反物質研究により08年度仁科記念賞受賞。
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