福島県南相馬市立総合病院の非常勤医で、東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門研究員の坪倉正治氏が、秋葉原に 放射線測定機器のトレーニングセンターが開設された記念講演会で、福島県南相馬市で行っている除染活動について、現場の苦労や実情を語った。【取材・構成 田野幸伸(BLOGOS編集部)】
坪倉医師:南相馬市は現在0.3から0.4マイクロシーベルト/時。 人口は元々7万人だったが、4月あたまに1万人まで減って、現在は4万人程度まで回復しました。南相馬は元々合併市、小高区、原町区、鹿島区が合併されて 出来た市。それが同心円で3つに区切られ、海側は津波の被害が大きく、船がまだ陸に置いてある。山に向かって行くとどんどん放射線量は上がっていきます。 山の上になると飯館村になって、村の中で3~4マイクロシーベルト/時。飯館村の南側になると、10~12、3マイクロシーベルト/時。東京の120倍く らいの線量です。
陸に打ち上げられた漁船(2011年6月 南相馬市 撮影:野原誠治)
■南相馬市でも「放射線関係ないでしょ」という人たちがいる
南 相馬市は(原発から)20キロ、30キロの線と、南側、市街地、山側で、9分割されたようになっている。合併市ということもあるが、場所ごと、人ごとにも 考えていること、やらなくてはいけないこと、困っていることが違う。海側に行くと(言われるのは)ヘドロのことばかり、放射線の説明会をしても、「僕たち は関係ないでしょ」という反応が多い。実際、海側に行くと0.1マイクロシーベルトとかになり、(たとえば)千葉県柏市よりも低い。山側に上がると、農作 物をどうするか、今年作ったお米をどうすればいいのかという話に急激に変わる。街中だと、小さな子どもを持つ親御さんが多いので、(放射線を)どうするか という話になります。
■屋根の洗浄でケガ人も
余談ですが、屋根の洗浄は非常に危険。病院に屋根から落ちて救急車から運ばれてくる人が何人もいます。誰がやるべきなのか、早く決めなければいけないが、現場では早く線量を下げたいので、どんどん自分たちでやってしまい、事故が起きる。これが現状です。
放射性物質は飛んできて、あちこちの場所に沈着しています。たとえば、草木の線量が高いので、切るとします。僕の経験では、雑草を刈り取ると、線量は(逆に)上がってしまう。草木の下の土にセシウムが沢山あるので、雑草の下の土を除去しないと線量は下がらないのです。
■除染は手作業
・土をはぐ
・水で洗う
・草を抜く
基本的にはこの3つしかありません。薬剤や、何らかの方法はあるのでしょうが、実際に南相馬市でやれているのはこの3つのみです。鋤と鍬と水があれば出来るので、近代兵器は必要ありません。この3つをどう組み合わせるかという話になります。
実 際に、除染のポイントというのは、とにかくありとあらゆる所を計測すること。この1点に尽きると思います。どういう風に除染すればいいのか、どう内部被曝 を減らせばいいのか、いろいろな問題がありますが、計測ポイントを増やし、計測回数を増やさなければ、何も解決策は生まれない。この点に尽きると思いま す。今我々は、5cm、1m、2m、それぞれの場所で計測をしています。
例えば、雨どいの数値が高い、水のたまる側溝が高いと言われてい ます。それを取り除くとどうなるか。周り5mの数値に影響するんです。ガンマ線は100m飛びます、200m飛びますと言いますが、数値が高いということ は、5m以内に原因がある。そこを徹底的に探すんです。その繰り返しで0.1マイクロシーベルト/時、下げれば1年で1ミリシーベルト下がる。これを繰り 返すしかない。大切なのは線量計を一般市民も含め、使いこなすこと。これが現場で求められている状況です。
土を剥ぐ深さについて、5cm 剥げばいいか、10cm剥げばいいかという議論がありますが、これはあまり意味のない議論で、土は、掘れば掘るほど下がるんです。「何cm掘りたいんです か」ではなく、「何シーベルト下げたいんですか」なんです。粘土質の土は浅く掘っても効果がありますが、砂地は深くまで浸透しているのでかなり掘らなくて はいけない。場所によってぜんぜん違うんです。ただ、難しいのが、掘った跡がでこぼこになってしまう。台風なんかが来ると、そのでこぼこに放射線物質が再 びたまってしまう。屋根とか壁も種類によって違う。
除染について、今我々が考えているのは、南相馬市全体でガサっとやれれば、それはいいかも知れませんが、現実的にはとても簡単に出来る話ではないと思います。少なくとも自分の周り半径何mという範囲をいかに綺麗にするかというのが今の段階です。
幼 稚園、小学校、中学校の校庭は、機械が入って除染することができますが、建物の中、家屋などについては、事細かに測定、除染をしなくてはならない。家の中 の線量をいかに下げるか。そのために庭を除染する。庭の線量を下げるためではなく、庭に近い部屋の中をきれいにするために除染する。そういう考えで除染を しています。
保育園の除染もしました。20m×15mくらいの敷地で、800箇所ぐらい計りました。それくらいやらないと、除染の効果はわからない。そして場所によって除染の方法を決めていきます。
保育園の隣には家もあります。そばには川もあって、川は県の管轄で、県に話をしようとすると、「1ヶ月待ってください」と言われて、1ヵ月経ってもぜんぜん返事がない。
隣の家と庭の草木を刈りました、しかし線量は上がりました。そこで下の土を剥ぎましょうとなった。土を剥いだら建物が傾いてしまう場所もある。じゃあどうする、立ち入り禁止にするかと、保護者と相談する。
この前、福島のある地区で、通学路の線量を下げるために放射線の高い雨どいの土を掃除して、その土を雨どいの横に並べておいたら、通学路の線量は上がったというのがありました。当たり前です。その土をどこに持っていくのか、考えておかなければいけない。
土 を捨てる場所を探すのが大変です。保育園では、駐車場を借りて埋めました。その駐車場のとなりのアパートに、一軒一軒園長が頭を下げて説明に回ったんで す。「処理はしっかりしますので、子供を守るために埋めさせてください。線量も測って、ちゃんとやりますのでよろしくお願いします」と。
そ れと同時に、当院(南相馬市立総合病院:原発に最も近い総合病院)にはホールボディカウンターが2台あります。鳥取から1台借りています。現在4000人 の検査が終わりました。日本の半分をやっています。ただ、小さい子どもは(計測の)2分間じっとしてはいられません。いろんな検査をするのも、限界があり ます。人体のチェックも大切ですが、今は、口から入る食べ物をしっかり検査して、これ以上体に放射性物質を入れないのが効果的です。
今後の体への影響も、除染も、食べ物に関しても、できるだけ細かく測ること、その精度を上げていくことが、今後のキーになってくると思います。
■ノーカット講演動画
-
大気社の過酸化水素による腐食が生じない安全確実な除染技術を提供します -
ユーロ危機への合理的対応が阻まれる理由 ―格差、緊縮財政と拡大するデモ
「放射線の原因は5m以内にある」南相馬の医師が語る、除染活動の実情
2011年10月17日23時30分
BLOGOS編集部
家の中1階だけでも15箇所~20箇所計る。そうしないと、安心してもらえない。家の周りを除染すると、窓側の部屋の数値は下がるが、家の中央の部屋の線量は下がらない。原因を5m以内で探さなければいけない。
保育園の除染もしました。20m×15mくらいの敷地で、800箇所ぐらい計りました。それくらいやらないと、除染の効果はわからない。そして場所によって除染の方法を決めていきます。
保育園の隣には家もあります。そばには川もあって、川は県の管轄で、県に話をしようとすると、「1ヶ月待ってください」と言われて、1ヵ月経ってもぜんぜん返事がない。
隣の家と庭の草木を刈りました、しかし線量は上がりました。そこで下の土を剥ぎましょうとなった。土を剥いだら建物が傾いてしまう場所もある。じゃあどうする、立ち入り禁止にするかと、保護者と相談する。
この前、福島のある地区で、通学路の線量を下げるために放射線の高い雨どいの土を掃除して、その土を雨どいの横に並べておいたら、通学路の線量は上がったというのがありました。当たり前です。その土をどこに持っていくのか、考えておかなければいけない。
土 を捨てる場所を探すのが大変です。保育園では、駐車場を借りて埋めました。その駐車場のとなりのアパートに、一軒一軒園長が頭を下げて説明に回ったんで す。「処理はしっかりしますので、子供を守るために埋めさせてください。線量も測って、ちゃんとやりますのでよろしくお願いします」と。
そ れと同時に、当院(南相馬市立総合病院:原発に最も近い総合病院)にはホールボディカウンターが2台あります。鳥取から1台借りています。現在4000人 の検査が終わりました。日本の半分をやっています。ただ、小さい子どもは(計測の)2分間じっとしてはいられません。いろんな検査をするのも、限界があり ます。人体のチェックも大切ですが、今は、口から入る食べ物をしっかり検査して、これ以上体に放射性物質を入れないのが効果的です。
今後の体への影響も、除染も、食べ物に関しても、できるだけ細かく測ること、その精度を上げていくことが、今後のキーになってくると思います。
■ノーカット講演動画
■関連記事
この記事は BLOGS
You can follow any responses to this entry through the You can leave a response, or trackback.