毎日新聞 2011年10月18日
須田さん宅の庭木を重機で掘り出し、除染する作業員。奥では屋根の除染も同時に行われている=福島市大波で2011年10月18日、森田剛史撮影
東京電力福島第1原発事故の影響とみられる高い放射線量を観測している福島市大波地区で18日、地区全体を対象とした初の「面的除染」が始まっ た。市が実施主体で地元では期待が高まる一方、子供の被ばくを避けて別居を選ぶ家庭も少なくない。この日、作業が始まり、野田佳彦首相の来訪を受けた代行 運転手の須田義春さん(61)もその一人だ。
「もう福島には戻らない」。須田さんの一人息子、孝弘さん(18)は原発事故後、生まれ育った古里を離れる決意を口にした。
同地区は、福島第1原発から約60キロ離れた福島市東部に位置する中山間地。美しい農村風景が広がり、地区の人たちは田畑を耕しながら自給自足の暮らしを続けてきた。
須田さんも自宅前に農地を持ち、四季を通じて野菜を作ってきた。収穫物の一部は市場に出していたが、原発事故で通常の1割の売値しかつかず、赤字 に転落。タマネギは廃棄し、コメやキュウリ、ナスなどの作付けをやめた。「汚染されている農産物を作ってもしょうがない。年間40万円ほどあった臨時収入 がパーだよ」
ショックに追い打ちをかけたのが、孝弘さんの苦渋の決断だった。市内の私立高校3年生で、担任からは「県内大手企業の就職は大丈夫」と太鼓判を押 されていた。だが、原発事故による就職難に加え、自宅周辺が特定避難勧奨地点に指定される可能性があるほど汚染され、決意を余儀なくされた。
「どれだけ被ばくしているか不安」という孝弘さんは「結婚して子供を持った時、福島で育てるのは難しい。俺らの人生を壊した東京電力にはしっかり補償してもらいたい」と語気を強めた。
市は大気中の放射線量を2年で毎時1マイクロシーベルト以下に低減させることを目指し、同地区は年末までに全367世帯で除染を行う。毎時2・5 マイクロシーベルト以上(18歳以下の子供や妊婦がいる場合は2マイクロシーベルト以上)を緊急除染地域(62世帯)に指定し、庭の表土のはぎ取りなど全 作業を業者に委託。残りは一般除染地域(305世帯)とし、通学路などを含めて業者と住民が手分けして除染する。
須田さんの自宅で最も線量が高かったのが、1階屋根の雨どい付近で毎時34マイクロシーベルト。17日に市の委託業者が線量を調査したが、市が用意した測定器では針が振り切れ、業者持参の測定器が必要だった。
18日は、市から委託された業者がゴーグルにヘルメット、かっぱを身につけ、高圧洗浄機で屋根や雨どいなど家屋の高い地点から洗浄を行った。母の サタイさん(88)が半世紀にわたって手入れをしてきた庭木もすべて伐採する。それでも、どれだけ線量が落ちるのか。不安がよぎる。
孝弘さんは来春、東京都内の大学に進学の予定だ。「家を継いでほしいが、健康被害を考えると無理は言えない。線量が落ちても昔の生活はもう取り戻せない」。須田さんはうつろな目で作業を見守った。【清水勝】
毎日新聞
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