日経新聞 9月13日
【パリ支局】12日に起きたフランス南部マルクールの核廃棄物処理工場の爆発事故は、原子力発電所の安全性を強調して世界にも供給する原 子力大国に冷水を浴びせる格好となった。仏当局は「事故は終結した」としたが、福島第1原発事故から半年、国際原子力機関(IAEA)が定例理事会を開催 中というタイミングで起きただけに、欧州主要メディアはこぞって刻々と詳報。周辺国に波紋も広がっている。
仏原子力安全局(ASN)は事故後に事故終結を告げる声明で「汚染は一切検出されていない」などと指摘。同国のマンジャンIAEA担当大使 は12日、IAEA本部で記者団に「これは原子力事故ではなく産業事故である」「放射能は外部に漏れておらず、過剰反応すべきでない」などと力説し、影響 が深刻ではないと強調した。事故現場周辺も「避難などの処置は講じていない」(消防関係者)もようで、街の様子も普段と変わらないと伝えられている。
フランスには、過去の原発の放射能漏れ事故の反省を受けて2005年、重大な事故が発生した場合に政府が陣頭指揮をとるために発足させた 「事故後指揮委員会」がある。放射能漏れなどが確認されたら即座に権限が発動し、仏電力公社など平常時の管理者に代わり、軍隊や省庁と協力し危機を管理す る仕組みだが、今回は発動していない。
仏紙ルモンドなどによると、事故が起きたのは放射性廃棄物を再処理する前に体積を減らす装置。爆発が起きた時には炉に約4トンの低レベルま たは極低レベルの廃棄物が入っていたという。同紙は放射性物質の量は約6万3000ベクレルで「原発に比べると非常に低レベルの放射能」とという専門家の コメントも紹介した。原因については「漏れた水が溶融した金属と接触したこともあり得る」とした。
だが、仏テレビ局は発生直後から事故をそろって速報。英BBCやドイツのウェルト、イタリアのレブプリカ、スペインのエルパイスなどの主要 紙も各社のサイトのトップ級で報道した。仏有力環境保護団体は「事故について徹底した情報公開を」などとする声明を出し、パリ株式市場では、事故があった 施設を所管する仏電力公社(EDF)株が急落した。
フランスは原子力発電での豊富な実績を背景に、原発事業を有力な輸出産業として官民一体で振興している。中核企業アレバは、機器製造や維 持・補修にとどまらず、ウラン探鉱や核燃料棒の製造、核廃棄物の再処理や廃炉作業、汚染水除去なども網羅。1兆円を超える規模の年商の6割が海外向けと なっている。
アレバは仏政府や政府関連機関の持ち株が9割を超える事実上の国営会社。国内の新設案件に限りがある中、原発導入を進める新興国への大統領外遊などには幹部が同行して技術を売り込んでいる。
だが、福島原発の事故後に国内の一部では「脱・原発」の動きが勢いづいており、今回の事故は自国や近隣諸国向け産業振興の逆風になりかねない危うさもある。それだけに、仏政府は担当相を現地に派遣。事故原因の究明や影響評価を急ぐ考えだ。
You can follow any responses to this entry through the You can leave a response, or trackback.