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東電支援の舞台裏 2兆円緊急融資、大手銀は即決

5月 29th, 2011 | Posted by nanohana in 3 政府の方針と対応 | 3 東電 電力会社 原子力産業

日経 5月29日

薄氷の公的管理 第1幕

東京電力が原子力発電所事故の賠償責任を負い、その支援策によって「公的管理」に追い込まれた。「原発の賠償支援策」を巡る舞台裏を探った。

「このままでは、そう遠くない時期に資金ショートしてしまう」。東京電力の武井優・財務担当副社長のもとに社内の各部門から資金要請が殺到した。東電は自力で市場から資金調達できなくなっていた。5000億円弱の手元資金は夏にも底をつく恐れが出てきた。

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東日本大震災で東電・福島第1原子力発電所が爆発事故を起こし、地震、津波の不安は原発へと広がった。だが東電は臨時取締役会さえ開けない ほど混乱していた。3月末の社債償還期限に資金繰りの内情が市場に伝わったら、社債も株式も暴落する――。時間切れが迫る中、東電は異例の「持ち回り取締 役会」で緊急融資の要請を決め、3月18日に各取引銀行に連絡した。

総額は2兆円。社債の償還に5000億円、火力発電の燃料調達に8000億円……。「2兆円あれば、社債が発行できなくても1年間は何とかしのげる」と考えた。

金融庁は 金融機関に融資を実行するか確認した。三井住友銀行やみずほコーポレート銀行など東電の取引銀行は、東電の経営破綻のリスクを計る必要に迫られたが、即決 した。「国はすぐには動けないから銀行が資金繰りを支えるしか手はない。政府からの事実上の要請だと受け止めた」と大手銀行首脳は明かす。

全国銀行協会の会長で東電のメーンバンクでもある三井住友銀行の奥正之頭取(当時)は3月25日、経済産業省の松永和夫次官と話し合う。松永次官は「我々も責任をしっかり負う。金融機関も支えてほしい」と語った。

奥正之氏

奥正之氏

大手銀は「原発事故の賠償は、東電ではなく国が責任を負うはずだ」と考えていた。原子力損害賠償法(原賠法)第3条には、異常に巨大な天災による事故は電力会社の賠償責任にならないという「ただし書き」があったからだ。

融資に応じたのは三井住友銀行(6000億円)、みずほコーポレート銀行(5000億円)三菱東京UFJ銀行(3000億円)など8金融機 関、計1兆8650億円。東電の信用力は大幅に低下していたが、融資の期間は3~10年で無担保、金利は事故前と同じに抑えることにした。

ところが3月末の融資実行直前に事態は急転する。「東電、国有化案が浮上」――。3月29日、大手新聞が報道。東電の責任問題が高まり、政府・与党は「原発事故の賠償責任は東電」との論に傾いた。「東電はつぶれるのか」。金融市場は激しく動揺した。

経産や財務、東電負担上限で攻防 難産の「政府原案」 薄氷の公的管理 第2幕

霞が関の官僚たちは頭を抱えていた。政府・与党は「賠償責任は一義的には東電にある」と表明した。しかし首都圏の電力供給を担う独占企業が破綻する非常事態になったら……。

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5兆円の東電の社債は通常と異なる「一般担保付き社債」。元利払いがあらゆる債権者より優先する。その社債すら払いきれなくなり、銀行の融 資も焦げ付いて金融市場は混乱する。なにより、被害者に賠償するためのカネも残らない。巨大事故を現実のものとして想定しなかった「法の不備」が露呈して いた。

電力の安定供給を確保しながら、金融市場の不安を払拭し、しかも東電が賠償を続けられるよう上場を維持する策はないか。金融庁・森信親審議官は原発賠償支援策について三井住友銀行にたずねた。三井住友銀の奥氏は国部毅頭取、車谷暢昭常務に「たたき台」の作成を指示した。

4月7日、金融庁の森審議官は原発賠償問題のキーマンとなった経産省の山下隆一電力市場整備課長に「銀行案」を見せた。産業再生機構の設立時に上司、部下の関係だった。

三井住友銀が経産省と協議のうえで描いたのは、預金保険機構の仕組みを活用した「原発賠償・保険機構」案。電力各社が保険料を支払って将来の原発事故に備える。機構には政府も資金を出し、公的資金を東電に注入するアイデアだった。東電の存続で電力供給を続け、賠償資金も確保する。金融市場の混乱も回避する条件は満たしていた。

4月11日、経産省や財務省の官僚が内閣官房に集められ、専門の担当部署が正式に発足。支援の策づくりが本格化した。経産省の北川慎介総括審議官がヘッドに就き、山下課長らが実動部隊として動いた。

経産省と銀行は財務省と水面下の協議に入っていた。「東電でなく、機構が賠償するのは原賠法の原則に外れる」。財務省は注文をつけた。「機 構=国の組織」とみなされ、結局は国が賠償責任を負うことになりかねないというわけだ。政府案は「賠償するのはあくまで東電」と修正する。

霞が関と銀行の「折衝」はなお続く。勝栄二郎財務次官は「東電を破綻させない、国有化しない」という前提には同意したが「東電の賠償負担に上限を設けるのはダメだ」と主張した。

東電の負担に上限を設けず、しかも東電を絶対に破綻させないという命題は、賠償額が巨額になる可能性があるなかでは矛盾していた。経産省と銀行はあくまで東電の負担に上限を設けるよう求めた。

「負担の上限問題」は難航の末、苦しい“妙案”をひねり出す。東電から機構への返済額を毎年の利益の範囲内にとどめる代わりに、返済期間は決めない。1年間の負担には上限を設けるが、総負担額の上限はないという理屈だ。

しかしそれでは東電が巨額の借金を抱える構図には変わりない。格付け会社は東電の格下げを検討し始めた。そこで財務省は譲歩した。東電の負担が重すぎて電力供給に支障が出るようなら「国が補助する」との項目を加え、「政府原案」ができあがった。

「これで決まり。代案があるなら出してほしい」。大型連休直前の4月末、経産省幹部は言い切った。

官房長官の「乱」、リストラ迫る 東電支援の舞台裏  薄氷の公的管理 第3幕

枝野幸男氏

枝野幸男氏

「東電は税金投入を当然だと思っているのか」。5月大型連休のさなか、関係閣僚会議で不快感をあらわにしたのは枝野幸男官房長官だった。官 僚中心の事務局ではなく、政治家の出番だ――。枝野長官を動かしたのは1998年、「政策新人類」として名をあげた金融国会の記憶だった。

官僚を通さない「政治主導」、公的資金を 投入するにあたっては金融機関を破綻させる。当時の情景が脳裏をよぎったのか、枝野長官は海江田万里経済産業相に「賠償を理由とした電気料金の引き上げは 認めない」ことを基本に、数兆円規模のリストラで交渉するよう要請。経産相は5月7日から直接、東電との交渉に入った。

海江田万里氏

海江田万里氏

連日、数時間にわたった閣僚会議でも、枝野長官の舌鋒(ぜっぽう)は鋭かった。特に対立したのは通産相を経験し、原子力政策を推進してきた与謝野馨経済財政相だ。

8日、与謝野氏が「東電にもパンツ一枚は残すべきだ」と迫ると、枝野長官は「ミンクのコートを脱いだだけだ」と応酬。仙谷由人官房副長官も加勢した。弁護士コンビで政治的に近く、ともに金融国会を経験し、首相官邸の中枢に座る2人が議論を主導した。

「リストラしないのなら公的資金は投入できない。会社更生法を適用したっていいんだ」。枝野長官のこうした強気に、東電は折れた。20日に11年3月期決算を発表すると決めた。

勝俣恒久氏

勝俣恒久氏

損失処理は1兆円強となり、資産売却は当初の2千億円から6千億円に積み増した。残ったのがトップ人事だった。

東電は官邸や与党の意向に疑心暗鬼となった。東電は大型連休中に詰める考えだったが、清水正孝社長の後任の名前は出てこない。「社長、会長とも続投か」との見方も浮上した。社内で明らかになったのは発表直前の取締役会。西沢俊夫常務の内部昇格だった。

発表前日、勝俣恒久会長が海江田経産相に耳打ちする姿が目撃されている。政府と東電の関係は「経産相―勝俣会長」「細野豪志首相補佐官―西沢氏」の組み合わせ。「この人間関係を重視したのだろう」と政府高官は推測した。

 

 

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