東京新聞 【私説・論説室から】 2011年8月29日
東京電力が先週の会見で「福島第一原発は高さ十メートル超の津波に襲われる可能性がある」と試算していたことを明らかにした。
東電は二〇〇八年に試算していながら放置し、原子力安全・保安院に報告したのは東日本大震災の四日前だった。「高さ九メートル超の津波が来る」という別の試算もあり、こちらは〇九年に保安院に報告している。
東電と政府はこれまで「地震と津波は想定外」と言い続けてきたが、実は想定内だったわけだ。
国民を欺き続けた揚げ句、世間の関心が民主党代表選に集まっている時期を狙って白状した。当事者として試算があるのは最初から分かっていたのだから、完全な確信犯である。
なぜ、いままで黙っていたのか。
単に世間の批判を恐れたというだけではない。それは賠償問題への思惑が絡んでいたはずだ。東電は「地震と津波は想定外の自然災害だったから賠償は政府の責任」という論法で生き残りを図ろうとした。
ところが「想定内の津波だった」となれば、東電が責任逃れできなくなる。だから、賠償枠組みが決まるまで隠し通そうとしたに違いない。政府も知っていながら賠償支援機構法が成立するまで黙っていた。
原発事故をめぐって、また一つ重大な情報隠蔽(いんぺい)が明るみに出た。東電と政府は「共犯関係」にある。これでは信頼回復などありえない。 (長谷川幸洋)
東京新聞
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