東京新聞 5月5日
東京新聞『こちら特報部』
政府が、福島県内の学校などでの被ばく線量を年間20ミリシーベルト以下と定めた問題。先月22日付の「こちら特報部」でもお伝えしたが、この決定に抗議 し、内閣官房参与の小佐古敏荘・東大大学院教授が辞任するなど、波紋が広がっている。判然としないのは、誰がどうこの基準を決めたのかという点だ。取材す ると、いつもながらの役所と政治家の無責任体質が浮かび上がってきた。 (篠ケ瀬祐司、中山洋子)
ここに一つの「メモ」がある。作成者は内閣府の原子力安全委員会事務局。議事録の代わりというこの「メモ」には学校での被ばく線量を「年間二〇ミリシーベ ルト以下」とした経緯が記されている。委に「助言要請」。四時ごろ、安全委から同本部に「二〇ミリシーベルト以下」とすることは「差し支えない」と文書で 回答した。
ただ、メモには安全委のメンバーから「年間二〇ミリシーベルトはあくまで出発点とすべきで、被ばくの低減化に努めることが必要」「内部被ばくを考慮することが必要」といった意見が出たとある。
この「メモ」は、社民党の福島瑞穂党首の求めに応じ、四月二十八日付でつくられた。
福島氏が同委事務局に十九日の委員の集合時間を尋ねたところ、五人の安全委員のうち、班目春樹委員長ら三人が集まったのは「助言」した一時間前の午後三時ごろ。遅れた委員と地方にいた委員へ電話連絡した後に「助言」したという。
安全委の代谷誠治委員が、記者会見で一〇ミリシーベルト以下を目安にすべきだとの見解を示したこともあったが、事務局は安全委の議論の過程では一〇ミリシーベルトに触れた委員はいなかった、と説明した。
ところで、文科省側の担当者は誰か。同省は取材に「安全委と協議したのは原子力災害対策支援本部とスポーツ・青少年局学校健康教育課の担当者だ」と明らかにした。同支援本部は、同省原子力安全課の職員らで構成されている。
一方、基準の「助言」にあたり、安全委は正式な委員会を招集せず、議事録も残していない。同委事務局は「『答申』を出す際は、正式に委員会で決定するので 議事録を作成しなければならないが、口頭で行える『助言』は委員会を招集しなくても可能だ」(総務課の担当者)と説明した。
先月三十日の衆院予算委員会で自民党の小里泰弘氏が「通常時の一般人の基準は年間一ミリシーベルトだ」などと引き下げを求めたが、高木義明文科相は「この方針で心配ない」。細野豪志首相補佐官もテレビ番組で「政府の最終判断だ」と突っぱねた。
しかし、専門家たちからも、この基準に対する疑問の声がやまない。
政府は基準の根拠は国際放射線防護委員会(ICRP)の報告と強調するが、小佐古教授は「二〇ミリシーベルトは高すぎる。国際的にも非常識」と、内閣官房参与を辞任した。
さらに市民団体「福島老朽原発を考える会」など六団体は二日、国会で政府関係者に対し、再び撤回を要請したが、その席上でも、基準決定のあいまいさが露呈した。
この席上、安全委事務局の担当者は「子どもに対して年間二〇ミリシーベルトの基準は認めていない」と繰り返した。だが、同委は対策本部に「差し支えない」と文書で「助言」しているはずだ。
さらに、この担当者は安全委メンバーに聴取した結果として、文科省への口頭の回答では「被ばく量を低くするために低減措置を求めることが絶対条件」「子ど もに二〇ミリシーベルトは認めないこと」「教員が線量計を身に着けてモニタリング報告をすること」と伝えてあると説明。“二〇ミリシーベルト基準”を全否 定した。
一方、文科省の渡辺格・原子力安全監は安全委のこの全否定にも、「二〇ミリシーベルトで危険ということではない」と発言。「私どもの行政的な知見の中で ICRPの報告などを基に判断し、年間二〇ミリシーベルトを超えない範囲で一時間あたり三・八マイクロシーベルトと算出。それで原子力安全委員会にOKを もらった」と説明した。
話がまったく食い違っても、安全委、文科省双方がその点で言い争うという場面はない。うやむやな雰囲気が流れる。
市民団体はこの日、保育園を管轄する厚生労働省にも要請行動をした。保育園も同じ基準が適用されている。
労働基準法が十八歳未満の作業を禁じている「放射線管理区域」の基準は、一時間あたり〇・六マイクロシーベルト。この値を基に追及する市民らに対し、厚労 省の担当者は「放射線管理区域で子どもを遊ばせることは認められない」と回答。これ以上の放射線量が基準となっていることについて「文科省と議論する」と 苦しい答弁に終始した。
ちなみに福島県の調査では、県内の小中学校の75%以上がこの管理区域基準を上回る数値が出ている。そのため郡山市などが独自に学校の表土を取り除き始めている。
だが、この日、文科省側は「自治体の取り組みにブレーキをかけるつもりはない」としつつ「除去しなくても安全上は問題ない」と強弁した。
そもそも、二〇ミリシーベルトはICRPの「事故収束後」の基準。ところが、福島第一原発の事故はまだ「収束」していない。
市民らの「放射線量が低くなっていく保証もない」との指摘にも、文科省と安全委の回答はともに「今後モニタリングを続け、高放射線量が続くなら再検討する」と繰り返すのみだった。
結局、文科省の強気な姿勢が突出するが、支えであるはずの安全委は見解を事実上“撤回”しつつ、言い訳に終始。この矛盾を閣僚たち政治家が黙認している、という構図が浮かび上がる。
福島市内の保護者らが一日に結成した「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」のメンバーは、文科省が「基準以下」とする学校から採取してきたという汚染された土を持参した。
政府関係者に「この土の上で子どもたちが遊んでいる。福島の父母と同じ目線で、子どもを守ってほしい」と迫った。
<デスクメモ> 現実を知るというのは最悪を想定することだ。その意味で、この国の政府はかなり危うい。東電の原発事故で「想定外」の理屈が破綻したこと を学習したはずだ。それなのに再び、子どもの被ばく基準で希望的観測を持ち出した。パキスタン情報機関に「売られた」ビンラディンも同じ穴に落ちている。 (牧)
文部科学省から安全委に対し、「福島県内の学校などの校舎・校庭の利用判断の考え方について相談したい」と、依頼があったのは先月九日。その後、文科省の担当者が安全委を数回訪れ、議論を重ねた。
相談を受けた五人の原子力安全委員らが何回か相談し、文科省にそのつど口頭で議論の結果を伝えた。先月十九日午後二時ごろ、この問題に最終的な責任を持つ政府の原子力災害対策本部が安全
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