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原発事故「レベル7」の正体 「想定外」ゆえ大ざっぱ

6月 23rd, 2011 | Posted by nanohana in 1 放射能汚染 | 4 福島第一原発の状態

◇「数万テラベクレル以上」ひとからげ

毎日新聞 2011年6月23日

福島第1原発4号機の原子炉建屋内部の様子=2011年6月10日午後2時ごろ、東京電力提供 

福島第1原発4号機の原子炉建屋内部の様子=2011年6月10日午後2時ごろ、東京電力提供

◇520万テラベクレルのチェルノブイリも、77万テラベクレルの福島も

「最悪のレベル7」「チェルノブイリに並ぶ」。4月12日の各紙夕刊には東京電力福島第1原発事故の評価が「レベル7」に引き上げられたことが大 きく報じられた。しかし、引き上げた当の政府内や専門家から「チェルノブイリよりはるかに下だ」なんて矛盾した声が聞こえてくる。一体どういうことかと思 い、事故の評価尺度を追っていくと、原子力を取り巻く“想定外”の問題点がまた一つ見えてきた。【日野行介】

この国際評価尺度(INES)は、国際原子力機関(IAEA)が90年に策定した世界共通の評価尺度だ。レベル0~7の8段階で原子力施設で起き た事故を評価する。86年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故は最悪のレベル7(深刻な事故)、79年の米国スリーマイル島原発事故はレベル5(広範囲な影 響を伴う事故)と評価された。

経済産業省原子力安全・保安院は福島第1原発事故の直後、レベル4とした。その後、レベル5に変更し、さらにレベル7へ。いったいどういうことなのかとINESの評価基準をインターネット上で探した。しかし、なぜか見つからない。

保安院が昨年3月に出した通達によると、日本では92年8月からINESを使っており、現在は最新の「08年版INESユーザーズマニュアル」に 基づき評価している。しかし、この通達に添付されていたのは、評価対象外の軽微なトラブルからレベル7までの簡単な区別をまとめた概略表1枚だけ。マニュ アル自体は付いていない。保安院と文部科学省に問い合わせると、「こちらでは公開していない。あるにはあるのだが……」と、異口同音に歯切れの悪い答えが 返ってきた。

どうも何か隠しているような印象だ。

保安院はマニュアルの和訳版を一部の研究者には配布しているという。これだけ関心が高まっているにもかかわらず、なぜ日本で和訳版を公開しないのか。

4月初めから6月にかけて、保安院の原子力防災課に問い合わせを続けた。「原版は英文で作られており、版権(著作権)がIAEAにあるため和訳版 を公開できない」をはじめとしてさまざまな理由を言われた。IAEAのホームページ内を探すと、英語版の「08年版INESユーザーズマニュアル」があっ さり見つかり、冒頭に「非商業目的での翻訳や再製は歓迎する。問い合わせはIAEAまで」と書かれていた。

政府の事故調査・検証委員会委員で、原子力の歴史に詳しい吉岡斉・九州大教授(科学技術史)は「レベル4や5と評価した後、1カ月もたってようや く7に引き上げるようでは、国際評価尺度の運用が恣意(しい)的でいいかげんと疑われても仕方ない。国民が事故を冷静に比較できるよう和訳版を公開するの は当然だ」と指摘する。会見などでも公開の要望が強く、保安院は結局、21日に公開した。

屋根が吹き飛んだ福島第1原発3号機の原子炉建屋を視察するIAEAの調査団=2011年5月27日午後、東京電力提供 

屋根が吹き飛んだ福島第1原発3号機の原子炉建屋を視察するIAEAの調査団=2011年5月27日午後、東京電力提供

英語版のマニュアルによると、INESが90年に策定されたきっかけは、チェルノブイリとスリーマイルの事故で80年代に原子力に関する報道が世 界的に過熱したことだった。放射線や放射性物質による影響という視点で事故の重大性を客観的に評価し、メディアや一般市民に冷静な対応を求めることが策定 の目的とされている。つまり、INESは、事故がいかに小さいかを“理解”させるためのものなのか。

INESで「アクシデント」(事故)と位置づけるのはレベル4以上。レベル2、3は「インシデント」(ヒヤリとした事案)、レベル1は 「ANOMALY」(例外)となっており、保安院の概略表はレベル3以下は「事象」と和訳している。レベル3以下は「事故」ではないというのだ。

マニュアルのレベル1~3の「事象」の説明部分は少なくとも100ページ以上あるが、4以上の事故部分の説明は約20ページとわずか。中でもレベ ル7は、数万テラベクレル以上の放射性物質が外部に放出された事故はすべて「レベル7」という大ざっぱな基準になっている。520万テラベクレルが放出さ れたと推定されるチェルノブイリと、77万テラベクレル(保安院評価)が放出されたと推定される福島第1原発の事故は両方ともレベル7になる。福島の10 分の1の放出量だったとしても、やはりレベル7だ。「どれほど大事故なのか評価し、公表する」という視点はおざなりだと感じる。

「専門用語を使わず、簡単な言葉で説明する」「住民の健康や環境に影響ない場合は断言する」など、発表の心得まで書かれていたのには驚いた。これらは客観的な事故の評価とは関係がない。

吉岡教授は、放射性物質による海洋汚染や複数の原子炉で同時に起きる事故を想定していない点も指摘し、「現状のINESは大きな事故は起きないと いう前提で作られており、大事故のレベルを表現できていない。放出量が1けた上がればレベルも上がるとするなら今回の事故は8、チェルノブイリは9にな る。作り直す必要があるだろう」と述べ、INESの信頼性に疑問を呈する。

大ざっぱな「レベル7」の背景には、「原発で大事故は起きない」と思い込みがあるのではないか。また、保安院がよく分からない理由でマニュアルの 和訳版を公表せず、専門家にしか配布しなかったのは、「素人に説明しても分からない」という専門家集団「原子力ムラ」の体質からではないのか。原発の深刻 な事故を正確に評価する新基準が必要だ。原発の安全神話から脱却するための最も基本的な作業のはずだ。

 

 







 

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