東京新聞 ( より転載) 2012.1.21
どうする老朽原発
政府は原発の運転期間(寿命)を原則40年、最大20年の延長容認とする方針を決めた。しかし、専門家の間で政府方針への評価は分かれている。
政府は原発の運転期間(寿命)を原則40年、最大20年の延長容認とする方針を決めた。しかし、専門家の間で政府方針への評価は分かれている。
原子力安全・保安院が老朽炉の安全対策を協議するため設置した「意見聴取会」のメンバーで、「老朽炉は例外なく廃炉にすべきだ」と主張する井野博満東大名誉教授と「寿命を一律に設けることは意味がない」とする庄子哲雄東北大教授に意見を聞いた。(聞き手・木村留美)
◆東大名誉教授 井野 博満さん
-政府が示した原発寿命の方針についてどう考えるか。
「40年を寿命としたことは評価できるが、延長もあるとしていて、運用次第で今までと同じことになりかねない。これまでの運用方法を改革する必要がある。40年で例外なく廃炉にすることを決めるとともに、30年を経た原発の審査を厳しくするよう方針を改めるべきだ」
-原発の寿命を40年とする根拠は。
「最初に30年とか40年もつように材料や機器を集め設計している。もちろんその年数が経過したからといって、すぐに壊れるわけではない。修理しながらぎりぎりまで使い、費用があまりにかさむようになったら止めるというのが経済的、という考え方もあろうが、原発には全くなじまない。万が一、事故が起きた時に収束が非常に困難だからだ。原発は特別な技術であり、安全に万全を期す必要がある」
-耐用年数を厳密に守るべきだと。
「そう思う。まず老朽化原発はすべて止めろと言いたい。特に、原発の技術ができはじめたばかりの1970年代につくったものはすぐ止めるべきだ。圧力容器の厚い鉄の板の熱処理は当時は技術的に大変だった。材質にむらがあるのではないかと疑っている」
-再検討の発端となった福島第一原発の事故の原因と老朽化の因果関係をどうみる。
「福島の場合、老朽化により地震で壊れる可能性があったのは配管だ。1号機では想定より早く水位が低下し配管が破断したとの推測はできる。断定はできないが、老朽化が影響した可能性はあると思っている」
いの・ひろみつ 東京大学大学院数物系研究科博士課程終了。東京大学名誉教授。専門は金属材料学。「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」の代表。共著に「福島原発事故はなぜ起きたか」など。73歳。
◆東北大教授 庄子 哲雄さん
-政府が示した原発寿命の方針をどう受け止めるか。
「何を根拠にしているかよく分からない。科学的合理性などの評価を無視し、政府が規制の強化をアピールする意味合いが強いのではないか。国民感情を考慮し たのかもしれないが、エネルギー政策の議論を詰めないまま方向を決め、行き当たりばったりの感がぬぐえない。日本の技術力低下も危惧している」
-原発に寿命は必要ないか。
「発電所ごとにかなり個性がある。まだ原発ができたばかりの1970年代と比べ、技術の進歩もあるので運転実績を踏まえた評価が必要。バリバリ働いている人に隠居しろと言っているような場合もある。ひとくくりにはできない」
-寿命がなくても安全を担保できるか。
「温度や圧力に加えて、振動や部材の厚みなど原発の状況を常時監視することで、予測されない状況が起きていないかいち早く検知し、未然防止していくことが重要だ。また、事故を教訓にチェルノブイリから多くを学んだ欧州のように、事故ありきの精神で危機管理をしっかりとしていかなくてはいけない」
-福島第一原発の事故と老朽化の因果関係を指摘する声もある。
「福島第一の40年目の評価にかかわり、材料の劣化や保全に関係するところも見てきた。指摘されている配管の破断も保安院の資料によれば、機能に影響を及 ぼすような大規模なものとは考えにくいとされている。地震から津波までの間の情報は不明な部分も多いが、機器の経年劣化が事故につながったとは現段階では 思えない」
しょうじ・てつお 東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程を修了。工学博士。専門は材料強度学。東北-リヨン理工学ジョイントラボラトリー共同所長。2002年から経産省総合エネルギー調査会の委員。64歳。
<老朽原発>
日本は原発の寿命を決めていなかったが、今月6日、政府は運転開始後、原則40年とする原子炉等規制法改正案を示した。極めて例外的とするが最大20年は運転延長できる。
これまでは30年で初回、その後は10年ごとに審査を受け延長する方法だった。国内の老朽原子炉は、40年超が福島第一の1号機など3基、30年超~40年未満が関西電力美浜原発2号機など16基ある。
東京新聞・核心 1月20日
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