北海道新聞 社説 2012.1.15
厚生労働省は食品に含まれる放射性セシウムについて、新たな基準値をまとめた。
放射性セシウムは半減期が長く、人体への影響が大きい。基準値は、この数値を超えたら出荷や販売を停止する目安だ。
福島第1原発事故直後に暫定基準値を設けたが、新基準は大幅に厳しくした。4月から適用される。
放射線の体への影響は十分に分かっておらず、被ばくは少ないに越したことはない。新基準は一歩前進である。
ただ、政府は暫定値でも安全と説明しており、さらに厳しくすることに疑問を抱く人もいるはずだ。
政府は消費者に新基準の意味や根拠を十分に説明し、基準を超える食品が食卓に上らないよう、検査や出荷体制を洗い直すべきだ。
厚労省は新基準づくりに当たり、食品から受ける年間許容被ばく線量を現行の5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに下げた。食品の国際規格をつくっている国際機関の指標に沿った。
これを基に、野菜や穀物、肉、魚などの一般食品が暫定値の5分の1、飲料水は20分の1、牛乳は4分の1にそれぞれ下げた。
新たに粉ミルクなど乳児用食品の項目を設け、一般食品の半分にした。大人より放射線の影響を受けやすい子どもに配慮したといえよう。
基準を厳しくしても守られなければ意味がない。とりわけ最も厳格にした飲料水の扱いだ。
検査をするには精密測定機器が必要だが、処理量の多い浄水場の場合、1千万円以上かかるという。
水は日々の生活に欠かせない。自治体の財政状況次第で、設置できないことがあってはならない。国は整備費を助成するなど支援すべきだ。
飲料水以外でも零細の食品加工場などでは、検査が不十分になる恐れがある。検査機器を共同使用するなど業界全体で取り組むことも求められるだろう。
厳格化で出荷できない農水産物が増える可能性もある。国や自治体は基準を超えた場合の買い取りの仕組みを整え、生産者の生活に不安を与えないようにしなければならない。
消費者が日ごろ食べているものに、どのぐらい放射性物質が含まれているか知りたいのは当然だ。特に子どもの給食は、自治体が定期的に測定する必要があろう。
各地の公的研究機関や自治体に簡易な検査機器を備えるなど、住民が食品を持ち込んで検査できる体制を構築することも考えてはどうか。
安全や安心は、国民の不安に応えるきめ細かな対策があってこそ、達成できるはずだ。政府や自治体は肝に銘じてほしい。
この記事は 北海道新聞 社説
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