放射能汚染地帯で暮らす福島県民の苦悩、不安募らす子育て家庭 おざなりの除染作業
1月 13th, 2012 | Posted by in 未分類東洋経済 2012.1.12
福島市渡利地区──。福島県庁から1キロメートルほどの距離にある閑静な住宅地が、福島第一原子力発電所事故による高濃度の放射能で汚染されている事実が判明。住民に不安が広がっている。
「9月に行われた大学教授と市民団体による調査で、自宅の庭先から高い数値が計測された。その後の市による測定でも数値は高かった。事態の深刻さが明らか になった以上、政府や東京電力には、この地区の子ども、妊婦を避難させる方策を一刻も早く講じてほしい」。こう語るのは、渡利地区に住む裏澤利夫さん(77)だ。
福島市環境課は11月28日、裏澤さん宅の空中放射線量を初めて測定。庭の柿の木の下の土壌から1メートルの高さで毎時2・95マイクロシーベルト、50センチメートルの高さで同5・45マイクロシーベルトという高い数値が計測された。地表から1センチメートルの高さでは毎時30マイクロシーベルトをオーバーしており、市職員のサーベイメーターでは測定不能となった。
■高い放射線が測定された場所を指さす裏澤さん
汚染が深刻な福島市 高い放射線の中で生活
1メートルの高さで毎時2・95マイクロシーベルトという数値は現在、住民が避難する際に国が支援を行う「特定避難勧奨地点」の指定基準(年間積算放射線量推計値が20ミリシーベルトを超えると推定された地点。8月時点では1メートルの高さで毎時3・0マイクロシーベルト)に匹敵するか、もしくは上回っている可能性が高い。
一方、50センチメートルの高さでの5・45マイクロシーベルトは南相馬市で設定されている「子ども・妊婦基準」(同2・0マイクロシーベルト)を大きく上回る。裏澤さん宅が南相馬市にあったとしたら、小学校4年生(9歳)および4歳の孫娘を持つ裏澤さん一家は国の責任で避難生活が認められていたはずだ。
ところが現在、裏澤さん一家には何の支援もない。福島市が消極的なこともあり、国が福島市内に特定避難勧奨地点を設けることに及び腰であるためだ。
しかし、住民の不安は高まる一方だ。子どもが浴びる放射線量を少しでも減らしたいと考えた裏澤さんの二男は、妻と子ども2人を市内の放射線量が比較的低い 親戚の家に自主的に避難させることを決意。11月中旬から、自宅近くの小学校への通学にはバスを使わせ、帰りは二男が自家用車で親戚宅まで送るという生活 に踏み切った。現在、母子3人は週末だけ自宅で寝泊まりするものの、庭先には出ずに屋内で一日を過ごす。
同じ渡利地区に住む阿部裕一さん(38)は妻および1歳8カ月の娘と3人暮らし。だが、妻が働いていることもあり、遠隔地に避難することは困難だ。「やむをえず、週末には県内外の温泉地などにクルマで出向く『週末避難』を余儀なくされている」(阿部さん)。
阿部さんの家計は火の車だ。「すでに週末避難の繰り返しでクルマ1台分の出費となってしまった」(阿部さん)。国や東電からの補償もなく、すべて自分持ちだ。
「渡利の 子どもたちを守る会」の代表で、2児の父親の菅野吉広さん(43)は「多くの家庭が経済的に疲弊している。避難の是非をめぐり、家庭内不和や家庭の崩壊も 起きかねない状況にある」と説明する。阿部さんも「本当にここに住んでいていいのかと不安に駆られて気持ちがぐったりすることが多い」と打ち明ける。
福島市や郡山市など、避難区域に該当しない地域では、避難生活を保障する代わりに放射線量を減らす「除染」を重点的に行うと政府や自治体は説明している。だが、除染をめぐっても大きな問題が持ち上がっている。
郡山市の桃見台公園(タイトル横写真)に近接するマンションに住む武本泰さん(53)は市のやり方に疑念を抱いている。エレベーターに乗り合わせた同じマ ンションの住民から、桃見台公園に放射性物質を含んだ側溝の汚泥を一時保管する計画があることを知らされたのがきっかけだった。11月3日のことだった。
マンション1階の掲示板を見たところ、同じ3日の日付で「側溝洗浄作業実施について作業奉仕のお願い」と題した張り紙が、町内会長名で掲示されていた。実 施日時はわずか3日後の11月6日。「汚泥を桃見台公園内のピットに仮置きする。桃見台全町内会で実施しますのでよろしくお願いします」と書かれていた。
郡山市で進められる除染活動の内実
公園内では11月1日ごろから工事が始まっていたが、武本さんは当初、公園の表土の除染作業だと思っていた。ところが、作業の規模ははるかに大きく、「市 および業者より、軽トラック5台、水中ポンプ2台、ダンプ4台、ふた上げ機20機、土嚢(どのう)袋1000枚」などという大がかりな作業であることが掲 示で判明。「そうであるならば、近隣住民に説明会が開催されるのが当然」と考えた武本さんが市役所に電話したところ、予期せぬ答えが返ってきた。
「除染作業の主体は町内会であり、一時保管場所を桃見台公園にしてくださいと市が申し上げた事実はない。ただ、30センチメートル以上覆土するので安全面の影響はない。時間的余裕がないので、今回は周辺住民への説明会は開催しない」
郡山市原子力災害対策直轄室によれば、10月20日に市内の連合自治会やPTA、ボランティアなどを集めて「郡山市線量低減化活動支援事業」の説明会を 開催。12月1日現在で、すでに除染活動を行った町内会などの団体は56団体に達している。補助金の申請件数は161団体に上る。作業1回について、最大 で50万円が市から町内会などに支給される。
ただ、除染事業が住民にきちんと周知されているとは言いがたい。住民への説明会が開催されていないケースが見られるほか、一時保管場所でありながら、少なからぬ公園では埋設の事実を示す目印すら設けられていない。
市の除染作業マニュアルでは、「人が立ち入ることのないように囲いを設け、放射性物質等を埋設している旨を表示します」と書かれているが、実施されていないケースが多い。
郡山市立安積第三小学校の校庭に隣接しているのが、安積スポーツ広場だ。ここに地区内の側溝の汚泥を集めて一時保管する計画が浮上したものの、住民の反発を受けて急きょ取りやめになった。
当初の計画ではスポーツ広場内の表土を除去して、地中に一時保管する作業が10月20日に始まる予定だった。だが、その計画が直前になって延期される一方、安積地区全域の側溝の除染作業で集めた汚泥を仮置きする一時保管場所の設置工事に切り替わることが判明。
「きちんとした説明会も開かれないまま方針が変わったことに疑問を感じた」という住民が市議会議員を通じて市に事情説明を求めたところ、計画そのものが中止になった。代わりに実施されたのが、小学校の保護者らによる通学路の除染活動だった。
安心して住むためにも、除染が必要なことは事実だ。しかし、これまでの進め方には拙速さが付きまとう。責任の所在があいまいになる中で、住民は内部被曝と背中合わせの生活を強いられている。
(岡田 広行 =週刊東洋経済2011年12月24-31日新春合併特大号より)
この記事は 東洋経済
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