週刊金曜日ニュース 2012.1.10
明治の粉ミルク「明治ステップ」(八五〇グラム缶、以下ステップ)から、一キログラムあたり最大三〇・八ベクレルという放射性セシウムが検出された。三月一一日の東京電力福島第一原子力発電所の事故で拡散したセシウムが、ステップを生産している埼玉県春日部市にある工場のエアフィルターを通過して、製造ラインに入り込んだ可能性が高いと見られている。
国は乳製品の暫定規制値として一キログラムあたり二〇〇ベクレル、乳児用ミルクに使う製品で同一〇〇ベクレルと定めている。今回検出された量はこれを下回っているが、明治では対象となる四〇万缶を無償で交換することを決めた。これについて、明治広報部は次のように説明する。「あくまで『交換』で、『回収』ではありません。お客様本人が交換したいという希望があれば交換に応じますが、こちらから積極的に呼びかけて回収することはありません」。
検出されたセシウムの量は暫定規制値を下回るもので問題はない、という明治側の姿勢が窺える。
粉ミルクは日々使用するもので、すでに飲まれてしまったものも少なくないはずだ。質問を重ねようとすると、「文書での質問でなければ受けられない」という。そこで、さっそく文書で質問書を送った。
第一の質問は、「今回の『ステップ』でセシウムが検出されたことを受けて国が乳児用の新基準を設けようとしているが、その新基準以下であれば粉ミルクの出荷は続けるのか。基準値以内でも放射性物質が『ゼロ』でなければ出荷しないのか」というもの。
これに対し明治広報部は、まず、今回検出された値は食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定規制値を下回っており、毎日飲用しても健康への影響はないレベル、と強調。さらに次のように続く。
「埼玉工場で製造する『明治ほほえみ』『明治ステップ』については、今後すべてのロットで放射性物質の検査を行ない安全性を確認した後、出荷します」
こちらとしては、「放射性物質『ゼロ』を出荷基準にするのかどうか」を訊きたかったのだが、質問の意味が伝わらなかったのか、意図的なのか、無視されたようだ。
さらに第二の質問として、「明治ステップ以外でも放射性物質は検出されているのか。それは基準値以内なのか『ゼロ』なのか」と訊いた。それに対する返答は、「それ以外の製品からの検出はございません」とあるだけだ。検出が「ゼロ」なのか、それとも、大気中放射線量で暫定規制値以内であれば「検出せず」と発表されているのと同じ意味なのかどうか、この文面ではまったく読み取れない。
さらに、明治広報部からの回答には「埼玉工場で製造する『明治ほほえみ』『明治ステップ』については、今後すべてのロットで放射性物質の検査を行ない、その結果を順次ホームページでお知らせしてまいります」とあった。
そこで同社のホームページを確認してみると、確かに検査結果が公表してある。しかも、そこには「検出せず」の文字がズラリと並んでいる。そして下の方の注意書きには「※検出せず:5Bq/kg未満」とある。「一キログラムあたり五ベクレル未満は『検出せず』とする」という意味である。
「検出せず」とあっても「ゼロではない」というわけだ。明治広報部からの回答書には、説明されていなかったことでもある。
本来、原発由来の放射性物資が食品に混入することはあってはならないことである。特に放射能の影響を受けやすい乳児については最大限の注意が必要となる。
明治だけでなく、乳児用食品を製造販売する全メーカーが心がけなければならないことだ。「検出せず」といった姿勢で消費者の信用を得られるのかどうか、全食品メーカーが改めて考えてみるべきではないだろうか。
(前屋毅・ジャーナリスト、12月16日号)
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