東京新聞 2012.1.1
新しい年が明けました。いつもの年にも増して、深い祈りのこもった元旦です。にぎわう初詣客のニュースを見ながら、数多くの神社仏閣が津波で流された東日本大震災の被災地を想像します▼大きな本堂ごと流されてしまった寺、散乱する墓石、石段だけ残して鳥居も社務所も消えた神社…。被災地でよく見られた光景でした。東北では、七十七の寺院が流失、全壊し、百四十五の神社が全半壊。檀家(だんか)や氏子にも多くの犠牲者が出ました▼地域の復興には欠かせない存在であっても、公的資金の援助は受けられず再建の道程は厳しい。仮設住宅で初めて年を越した人たちにとっては、初詣もできないつらい年明けです▼正月返上で福島第一原発で作業をするという三十五歳の男性の声が、きのうの社会面に載っていました。津波で十人の同級生を亡くした男性は、国道から見える海に向かって手を合わせることが自分の初詣だといいます。政府は早々と「収束宣言」をしましたが、現場を支えているのはこういう人たちです▼経済産業省前では大みそかの夜から、反原発や反貧困を訴える大勢の若者らが歌合戦や年越しカウントダウンで気勢を上げていました。これが彼らの初詣のようです▼今年は辰(たつ)年。<竜の髭(ひげ)を蟻(あり)が狙う>ということわざは、弱者が強者に立ち向かう例えです。小さな声でも集まれば社会を動かせます。
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