東京新聞 社説 2011.12.27
政府は武器と関連技術の輸出を禁止している「武器輸出三原則」の緩和を二十七日、官房長官談話の形で発表する。野田内閣は国会論議もないまま、「平和国家」の看板を下ろそうというのか。
三原則見直しが本格化したのは政権交代後である。自民党政権では官房長官談話で巡視艇供与を認めた例はあるが、民主党政権は三原則を歯止めなく緩め始めた。
菅内閣は今年六月、日米で共同開発を進めているミサイルの第三国への輸出を認める方針を米国に伝えた。二十七日の談話発表は、三原則緩和の第二弾にあたる。(1)米国や友好国との国際共同開発・生産への参加(2)自衛隊が国連平和維持活動(PKO)などの海外派遣で使用した装備品の人道目的などの供与─を可能にする。
ちょっと待ってほしい。武器を共同開発する相手国と日本の国益は必ずしも一致しない。米国なら日本との間で共同開発した武器を同盟国のイスラエルに売却するかもしれない。友好関係を保ってきたアラブ諸国から反目され、日本の中東外交が揺らぐことになる。
PKOでは、武器とみなされ、供与できない装備品の重機に代わって民生品の重機を持ち込み、供与する方式が定着している。東日本大震災では自衛隊の重機が不足し、レンタル品を使った。供与しても国内活動に支障のない装備品など本来、あるはずがない。
三原則緩和の背景に、民主党が支持基盤を防衛産業に広げる狙いがあるのだろう。北沢俊美前防衛相は二〇一〇年一月、日本防衛装備工業会の賀詞交歓会で、初めて三原則緩和に触れた。戦車、護衛艦、戦闘機の製造にかかわる企業は一千社を超えるが、装備品調達額は一〇年度、ピーク時の六割六千八百億円まで減った。そこで浮上したのが武器輸出である。
二十七日の官房長官談話は、一〇年七月に経団連が発表した「新しい武器輸出管理原則」と驚くほど似ている。三原則緩和の裏に、産業界の要求を丸のみする代わりに政権を支えてほしい、そんな思惑がうかがえる。
国内で売れない武器を海外で売ろうとするのは、国内で新規建設ができない原発を輸出しようとするのと同じで、はじめに産業界の救済策ありきではないのか。
日本が国際武器市場へ参入することになる三原則緩和は断じて認められない。抑制的な防衛政策を放棄するに等しい官房長官談話の発表は見送るべきだ。
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東京新聞 社説 2011.12.27
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