産経新聞 2011.12.24
厚生労働省がまとめた食品中の放射性物質についての基準値案が22日、薬事・食品衛生審議会の部会で了承された。
福島第1原子力発電所の事故後に定められた暫定基準値に比べると20分の1~4分の1という低い値になっている。この新基準値案は、現状において厳し過ぎないか。
原発からの新たな漏出は収まっているものの、環境中には事故直後に飛散した放射性セシウムなどが存在している。
この状況下で基準を大幅に厳しくすれば、出荷停止となる食品が急増しかねない。風評被害が、震災からの農業などの復興を妨げたりはしないか心配だ。
新基準値案では、「飲料水」の上限が1キロ当たり10ベクレルとされたのをはじめ「乳児用食品」と「牛乳」がそれぞれ50ベクレル、野菜や穀類、魚肉類などの「一般食品」が100ベクレルに改められた。
現行の暫定基準値は、飲料水と牛乳・乳製品で各200ベクレル、野菜などで500ベクレルとされている。乳児用食品は、新基準で設置された区分である。
放射線の被曝(ひばく)と健康について考えるとき、目安として忘れてはならないのが、事故とは関係なく、もともと自然界に存在している放射性カリウムなどの存在だ。
それを飲食物を通じて摂取している結果、人体は約6000ベクレルの放射能を帯びている。体重60キロの人なら1キロ当たり100ベクレルという計算だ。健康人の体内の放射能の方が、新基準値案の飲料水や牛乳のレベルを上回っているわけである。ここにも基準値案の厳しさの一端が、顔をのぞかせる結果となっている。
新基準値案は、安全よりも安心志向の規格といえる。平常時なら厳しい基準が適用されて当然だが、今の被災地などの生活環境は、いまだ非常時に近い。そこに平常時に準じた数値を導入すれば、測定値のわずかな超過によって、不安や混乱をあおり立てることになりかねない。
厚労省は来年4月からの新基準導入を目指しているが、急ぎ過ぎだ。適用を数年延ばしたり、基準を段階的に厳しくしたりする措置を講じることが望ましい。
それと同時に基準値の持つ意味を国民に分かりやすく説明する努力が必要だ。消費者や生産者、販売者の理解がなければ、食の安全の真の目安にはなり得ない。
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