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「見切り発車」の災害がれき処理

1月 23rd, 2012 | Posted by nanohana in 3 政府の方針と対応 | 3 首長、自治体 | 4 核廃棄物 がれき 汚泥

東京新聞 こちら特報部(より転載) 2012.1.21

 東京電力福島第一原発事故の放射能に汚染された東日本各地の焼却施設で連日、ごみが燃やされている。岩手、宮城両県の災害がれきは地元では処理しきれず、全国で受け入れる計画が進む。
焼却施設から放射性物質がまき散らされ、住民が2次被ばくする恐れはないのか-。環境省は「安全」と言い張るが、その根拠は薄弱だ。同省は昨年6月、実際のデータがないまま、災害がれきの焼却処理方針を決めていた。(佐藤圭)

 昨年6月19日、東京・霞が関の環境省第一会議室。非公開で開かれた有識者会議「災害廃棄物安全評価検討会」は、福島原発周辺の警戒区域・計画的避難区域を除く福島県内の災害がれきの処理方針を了承した。

非公開の理由は「表に出せないデータがある」(同省廃棄物・リサイクル対策部)だった。

 密室で決まったのは、大きく言って
(1)木くずなどの可燃物は、新たに放射能対策を講じなくても、既存の焼却炉で焼却可能
(2)放射性セシウム濃度が一キログラム当たり8000以下の不燃物や焼却灰は最終処分場に埋め立てが可能で、8000超については一時保管-の2つだ。

 可燃物については「十分な能力を有する排ガス処理施設」との条件を付けた。「十分な能力」とは、ダイオキシン対策で整備された「ろ布式集じん機(バグフィルター)」と呼ばれる高性能の排ガス処理装置のこと。ダイオキシン対策が放射能汚染に通用するとは、にわかに信じ難い。

 この時点で、放射能汚染がれきを実際に焼却炉で燃やしたデータはなかった。環境省によれば、その主な根拠は、検討会委員の大迫政浩・国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター長が同会に提出した資料だった。

 その一つが、同センター作成の「放射能を帯びた災害廃棄物の処理に関する検討」。ぜんそくや肺がんを引き起こす可能性のある「PM2・5」という粒子状物質は、バグフィルターで「99・9%以上(除去できる)」。だから「(放射性セシウムなどの)元素も捕集される」と報告している。ただ、わずか四ページの資料だけでは、その理由はよく分からない。

 もう一つが「一般廃棄物焼却施設の排ガス処理装置におけるセシウム、ストロンチウムの除去挙動」と題した論文だ。2009年秋、バグフィルターを備えた「A自治体」の焼却炉で測定したところ、セシウムの除去率は「99・99%」という。だが、ここに登場するのは放射能を持たない「安定セシウム」と「安定ストロンチウム」。そもそも放射性物質をテーマにした実験ではないのだ。

 有識者のお墨付きを得た環境省は6月23日、この方針を正式決定した。後日公表された会議の議事録によれば、これらのデータについて「机上の仮定の数字が多い」(酒井伸一・京都大学環境科学センター長)と批判的な意見もあったが、環境省は黙殺した。

 同省廃棄物・リサイクル対策部は「十分なデータはなかったが、方針はすぐ出さなければならなかった。ごみを燃やすことができなければ都市生活は成り立たなくなる」と説明する。まさに「焼却ありき」だった。

 環境省自ら「不十分」と認める状況下で、放射能汚染がれきを燃やすのは「人体実験」ではないのか。

 大迫氏は「こちら特報部」の取材に「バグフィルターでのばいじんの除去率や、安定セシウム、安定ストロンチウムでの除去率の高さから、バグフィルターで十分除去できる、と検討会で判断した。

安定セシウムの挙動は、放射性と同じになると考えていい。災害廃棄物を燃焼した試験はこの時点では行っていないが、災害廃棄物も通常の可燃物なので、性状が都市ごみと大きく異なることはない」と主張した。

 環境省も「放射性セシウムの除去率は実際に99・99%だった」と反論する。その根拠を尋ねると、同省が昨年11月末から12月中旬までの間、福島県内6カ所の焼却施設で測定した結果を示された。そこには「除去率99・92~99・99%」とある。

しかし、これは、バグフィルター付近の測定結果から算定したにすぎない。投入したがれきに含まれていた放射性物質の総量は調べておらず、実際にどれくらい除去できていたのかは疑問が残る。

 福島県での処理方針は、岩手、宮城両県の災害がれきの広域処理にも継承された。見切り発車した「福島モデル」が今や全国標準になったのだ。

 岩手、宮城両県の災害がれきは、通常の年間量の10~20年分に相当する約2千万トン。東京都と山形県が受け入れているが、そのほかの地域では住民の反発で調整が難航している。

 環境省は、広域処理の安全性を必死にアピールしている。そこで振りまいているのが「バグフィルター安全神話」だ。

住民向けのパンフレットには、バグフィルターの図入りで「放射性セシウムをほぼ100%除去でき、大気中への放射性セシウムの放出を防ぎます」と強調している。受け入れに反対する住民は「無知」と言わんばかりだ。

 ごみ問題に詳しい環境ジャーナリストの青木泰氏は講演会や著書などで、「バグフィルター安全神話」に疑問を投げかけている。

 「バグフィルターではダイオキシンもすべて取り切れないのに、原子レベルの放射性物質が除去できるというのは、サッカーのゴールネットで野球のボールを捕獲できると言うに等しい暴論だ。焼却炉の煙突から放射性物質が放出されれば、その空気を吸った住民は内部被ばくする」

 検討会のあり方については「技術的な検討の場を非公開にする理由は全くない。本来は2~3年かけて検討を重ねなければいけない問題だが、環境省は、放射性物質が除去できるという実際のデータがないまま、がれき焼却方針を決めてしまった。方針を決めた後に実験でつじつまを合わせても、誰にも信用されない」と憤る。

 では、どうするか。青木氏は訴える。

 「バグフィルターで99・99%除去できるという説明は直ちにやめるべきだ。現在のように、汚染度にかかわりなく、何でも燃やすのは間違っている。受け入れの基準を早急に決める必要がある」

<デスクメモ>「被災地復興のためには、がれき受け入れに協力することが不可欠」。東京都の担当者は本紙記者の取材にこう答えていた。都民の不安や懸念に対して、環境省のお墨付きがあるという事実はさぞ心強かったことだろう。それが“根拠レス”だったとなると…。ご都合主義で振り回されてはたまらない。(木)

この記事は 東京新聞 こちら特報部(より転載)

 

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